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子どものころの本の思い出というと、私の場合は、やはり小学生のころかもしれない。私の母校は、琵琶湖のほとりにある大津と言う町にあった。大津は、三井寺をはじめとする数々のお寺や神社がある古い町だ。京都に近いこともあって、華やかな京文化にも影響された古都としても最近知られるようになった。裏手には、比叡の山がたちはだかり、自然あり文化ありの豊かな環境にめぐまれている。中心の家々は、すべて町屋づくりでそんな町のはずれに木造の小学校があった。 生き物が大好きだった私は、お昼休みや放課後、あししげく学校の図書室に通った。図書室は、人気がなくさみしい感じで入り口の戸をあけるといつもかび臭いにおいがした。目的は、図書室でも一番おおきな本ばかりおいてある事典や図鑑のコーナー。ここは、私にとって家では買ってもらえない貴重な本の宝庫だったのだ。お気に入りの1冊は、ひとかかえもある「台湾産蝶類大図鑑」。この本は、もう1人ライバルがいた。相手も私も本を一度手に取ると、もうその時間は、手放さないほどしつこいので、授業のチャイムが鳴るなり小走りにかけこんだものだ。 大きなページをめくると、見たこともない熱帯のチョウが目に飛び込んでくる。原寸大で載せられた黄色と黒の原色のチョウをみて、どうしてこんな美しい生き物が、この世に存在するのだろうと、まか不思議に思った。熱帯のジャングルの梢をどのようにして飛んでいるのだろう。そんなことを想像するだけで胸がわくわくした。大人になったら絶対にジャングルに行こう。図鑑をひらけるたびにそう誓った。 図鑑というと名前を正確に調べる本というイメージがあるが、子どもにとっては、科学絵本の領域をこえて、絵本のような存在になってしまうこともある。白いページにチョウの標本がはねをひらいてならんでいても、そこには十分に物語がつまっている。というより、見ている本人が、物語をつくるのだと思う。本のページは、シンプルであればあるほど、想像力をかきたてられるのである。 ちなみに「台湾産蝶類大図鑑」は、大人になってからやっと古書店で手に入れて、今は無事に私の書斎にある。
写真家 今森 光彦
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