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エッセー&小論

ネパールの図書館と子どもたち

国立国会図書館 国際子ども図書館 館長
村山 隆
(2006年9月発行 会報第109号より)

 2004年2月、筆者は、国際図書館連盟資料保存コア活動アジア地域センター長(国立国会図書館は同センターを1989年に受託)として、資料保存の予備的調査のために、ネパールに出張した。ネパール国立図書館、国立公文書館等が調査の対象であったが、ネパール国立図書館児童室とコミュニティ図書館を訪れる貴重な機会を得た。

「若い国」ネパール
 ネパールの国土は北海道の2倍弱。標高は、南部のタライ平原から北部の山岳地帯にあるエヴェレストまで、南北200㎞足らずの間に8000m以上変化する。この標高差に気候、宗教、経済状態を加味しなければ、ネパールの国情を理解できないといわれる。人口2480万人(2004年7月)の中には102の民族/カーストと92の言語がある多民族国家である。公用語はネパール語だが、母語とするのは全人口の50%弱。識字率は、53.7%である。19歳以下が全人口の半分を占める「若い国」であるが、貧困故の未就学あるいは未修了児童も多い。最も本を必要とする国の一つである。

カトマンドゥの「ぐりとぐら」
 当時、ネパール国立図書館には、独立行政法人国際協力機構のシニア海外ボランティアとして、山田伸枝さんが派遣されていた。児童サービスの専門家でもある山田さんは、隣接する、草の生い茂った敷地にあった馬小屋を改装して、新しい児童室を作ってしまったのである。同館には、1995年に開設された児童室があったのだが、子どもたちへのサービスプログラムはなく、実質的には機能していなかったのに業を煮やしての行動であった。山田さんは、「海外ボランティアのネパールボリボリ通信 第10回」(『図書館の学校』43号、2003年7月号)で、この児童室開室について書いておられる。その中で、ネパールの状況と子どもたちへの図書館サービスの必要性に鑑みて、「児童書の出版も盛んになっており、様々なNGO・INGOが学校図書館の充実、子どもたちへの読書推進活動、図書館建設に力を入れています。そこで国立図書館で児童室のモデルを作り、児童サービスのための研修を行い、児童図書館の役割や重要性を認識して貰える手がかりを与えることができるのではないかと大それた事を考えてしまいました」と高い志を述べておられる。

 児童室は、居心地のよい、落ち着いた佇まいであった。床には亀の形をしたクッションが置かれ、壁には、地図類や日本図書館協会の図書館記念日のポスターとともに、子どもたちが描いた「ぐりとぐら」が飾られていた。日当たりのよい窓辺では男の子が1人で本を読んでいる。昼下がりのとても印象的な光景であった。

村のコミュニティ図書館
 ネパールには、公立図書館はほとんどない。全国に600以上あるといわれる地域の篤志家や有志の寄付によって運営されるコミュニティ図書館が、住民の読書を支えている。山田さんと一緒に、ヒマラヤの眺望で有名なナガルコットの麓にあるスリ・ガリマ図書館を訪ねた。同館は、1990年の民主化の折に、若い人には図書館が必要であるとの発議が村の長老からなされて設置された。蔵書の規模は約1000冊。コミュニティ・メンバーが交代で運営にあたっているが、サービスには専任が必要であると、村が専任1名分の給料を出している。開館時間は長くはないが、早朝の開館を含め、村人が利用しやすい時間帯に設定していた。翌日は、遠くにヒマラヤの峰々を見ながら、山越えをしてウグラ図書館を訪れた。両館ともに、本が少なく、また古いので、ネパール国立図書館からの貸出が、新しい本を読める貴重な機会である。このコミュニティ図書館を10代後半から、20代の若者たちが運営しているのである。

カトマンドゥの路地
 カトマンドゥは路地の町である。2月の朝、カトマンドゥは深い霧に包まれる。日が昇り、霧が晴れてくると、辻という辻に、祠があるのが見えてくる。朝のお供えが新しい。政治的には、2002年の下院解散以降、議会が機能しておらず、混迷が深まっていた。最近の新聞報道によると、ようやく落ち着きの兆しを見せ始めたようである。屈託のない子どもたちの、路地にはじける声が途切れることのないように願ってやまない。

著者紹介

国立国会図書館 国際子ども図書館 館長    村山 隆

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