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施設の不十分な中学校を卒業して東京の高校へ入った。そこそこに充実した図書室があった。 数学の先生が(図書室の責任者だったから)最初の授業を始める前にクラブ活動として図書部へ入ることを勧め、 「図書部員をやるといい大学に入る。統計的にまちがいない」 と、のたまった。 受験校だったから、この言葉は生徒の耳によく響く。 ――ずいぶんと露骨なことを言うなあ―― と思わないでもなかったが、今でも覚えているところをみると傾聴をしたのだろう。 私は読書が好きだったし、図書部員は身に合ったクラブ活動だと考えたが、当時、事情があって1時間半もかけて通学しなければいけなかったから、図書部員のように遅くまで居残って当番をやるのはつらい。結局あきらめてしまった。 読書はもっぱら文庫本で、これは通学に長い時間を要するのが、むしろメリットとなったようだ。混んだ電車にもめげず、せっせと読んでいた。 話は少し変わるが、私は、 ――図書館はまずリファレンス・ブックを充実させること―― と考えるほうだ。 事典、年鑑、年表、便覧、図鑑、目録、地図、新聞の縮刷版などもこれに近い。通読する本ではなく、なにかを調べるためのツールである。残念ながら貧弱な図書館が多い。 リファレンス・ブックは、それ自体単価の高いものが多いし、長い年月をかけて集めないと充実した内容にはなりにくい。しかし、これが図書館の、もっとも図書館らしい資料であることは論をまたない。通読する本はほかで入手して利用する方法がいろいろと実在している。高校の図書館には、利用しやすい文庫目録があり、私はこれを見ては古本屋に通った。古本屋で見つければ文庫本は安いものだった。 ところで、あのとき図書部員になった友人たちはどうなったか。数学の先生の統計は正しく、いい大学に入った人が多かった。居残り当番をしながら、せっせと本を読んだから、だろう。彼等はまた読書習慣を身につけ、今も老後の楽しみとしているにちがいない。
作家 阿刀田高
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