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エッセー&小論

エンザロ・ドリーム・ライブラリー

翻訳家
さくまゆみこ
(2005年11月発行 会報第107号より)
 昨年9月に西ケニアの山あいにあるエンザロ村に子ども図書館「エンザロ・ドリーム・ライブラリー」をつくった。きっかけは、福音館書店発行の「たくさんのふしぎ」2004年2月号の「エンザロ村のかまど」というノンフィクション絵本。文章を書いた私も、絵を描いた沢田としきさんも、この村に滞在して村の方たちにお世話になったので、ささやかなお礼をしようということになったのだ。

 「エンザロ村のかまど」に登場する岸田袈裟さんが持っていた煉瓦づくりの建物を利用し、村の人たちがこしらえた手作りの本棚に、沢田さんや、現地に私と一緒に出かけた仲間(児童文学研究家の福本友美子さん、絵本研究家の広松由希子さん、イラストレーターの母袋秀典さん)が集めて持って行った英語の絵本や図鑑や物語280冊と、岸田さんが率いるNGOが現地で用意した英語やスワヒリ語の本300冊が並んだ。小学校から、共通語であるスワヒリ語と英語を習うので、この2つの言語の本を用意したのだ。

 エンザロ村一帯は、ケニアの中でも貧しい地域で、私が訪ねたいくつかの小学校でも、教科書を持っている生徒がクラスに2、3人しかいないという状態だった(今は大統領が替わって、教科書も無償配布されるようになった)。したがって、図書館はおろか本が何冊も並んでいる様子を見たことがない子どもがほとんどで、本棚に本を並べるにしても、日本の子どもなら本の背をこちら向きにして立てて並べるが、エンザロ村の子どもたちは、本を寝かせて積んだり、小口側をこちら向きにして並べたりした。

 本を貸し出すべきかどうかも、問題になった。学校に付属する図書館なら、利用するのはその学校の教員か生徒だけなので、貸し出しや返却のチェックもしやすい。現に、ケニアの他の地域にある学校を訪れたときには、小さいながら図書館がきちんと運営されていて、本が紛失することもない、という話を聞いて大いに感心した。その学校には、しっかりした考えをもった先生がいて、本の貸し出しノートもちゃんとつくってあった。

 しかしエンザロ・ドリーム・ライブラリーには、いろいろな人がやってくる可能性があった。エンザロ村はバスなどが通る舗装道路からもずいぶん離れたへんぴな所だが、ケニアの人は毎日平均20キロ歩く。遠くの地域からやってくる人もいるとなると、貸し出した本の追跡は難しいだろうということになり、当面は図書館の中での利用に限定することになった。今は7つの小学校と3つの中学校から生徒たちが通ってくるようになり、自習室も設けられた。不便な場所にあるにもかかわらず毎月400人前後の利用者がある。

 アフリカは語りの文化が根強く残っている大陸である。図書館がその語りの文化を押しやることになりはしないか、という懸念もあった。けれども今はケニアでもエイズの感染率が高くなり、働き盛りの人たちが次々と亡くなっている。語りの文化をになってきた老人世代は子育てに復帰せざるを得なくなり、のんびりと物語を語る余裕もなくなってきた。図書館を利用する子どもたちからも、勉強の本をもっと入れてほしい、とリクエストの声も続々と上がってきている。今のケニアでは本が果たす役割も大きいのかもしれない、と私たちは考えている。

 今年の9月には、この図書館をつくった仲間たちがまた集まり、中央区のギャラリーで、「アフリカの絵本原画と児童書展」を開催した。アフリカを舞台にした絵本8点の原画と、写真絵本3点の写真パネルなどを展示し、アフリカをテーマにした児童書150点も見てもらえるようにした。白いシーツを用意して、やってきた子どもたちに、エンザロ村に送る「寄せ絵」を描いてもらうというイベントなども行った。同時にここではアフリカに子どもの本を届けるための寄付金も募った。集まった寄付金は、本や医薬品を積んで村々や学校を回っていく移動図書館の費用に充てることになっている。

本を読むエンザロ村の子どもたち


月島(東京・中央区)で開かれた展覧会


エンザロ村の村長さんたちと

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翻訳家    さくまゆみこ

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