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エッセー&小論

福島原発と鳥の巣 絵本「おじいさんとヤマガラ-3月11日のあとで」のこと

絵本作家・鳥の巣研究家
鈴木 まもる
2013年9月発行 会報第10号より
山の中に暮らしています。毎年家の周りの樹に巣箱をいくつも取り付けます。シジュウカラやヤマガラが、その中に巣を作りに来るからです。猫の毛を置いておくと巣材に使うのに持っていったり、青虫や蛾などの虫を餌に運んだり、愛らしい仕草を見るのは楽しいことです。特に巣立ちの日は、いつも餌をあげる親鳥が、その日は入り口で餌の虫を見せるだけで行ってしまいます。お腹のすいたヒナが巣箱から顔を出すと、親は近くの樹の枝にとまり翼をはばたかせ飛んでくるように促します。でも、まだ飛んだことのないヒナは飛ぶのが怖いので顔を引っ込めてしまいます。でも、だんだんお腹がすいて……巣箱から飛び出し、巣立ちとなります。(人間の親は、ここで餌をあげてしまうから、巣立たず閉じこもってゲームばかりする人間を作ってしまう…)。
 1回の繁殖で、シジュウカラだと7~9羽、ヤマガラだと5~6羽のヒナが巣立つのですが、中には怖くて、なかなか飛び立つことができないヒナもいてハラハラ、ドキドキして見守ります。そんな小さかったヒナたちも、冬には庭の餌台にやって来て元気な姿をみせてくれます。
 巣箱を使うシジュウカラ、ヤマガラだけでなく、ほとんどの鳥が春に巣を作りヒナを育てます。なぜ鳥が春に巣を作るかというと、ヒナが早く成長するように栄養価の高い虫を餌にあげるからで、その虫がたくさんいるころにあわせて巣作り産卵し、ヒナを育てているからです。(ワシなどの猛禽類はネズミなど、小型の哺乳類を与えます)。鳥の種類により、あげる虫や量は違いますが、ヤマガラで1日300回、シジュウカラでは1000回も餌を巣箱に運んだという記録があります
 日本は南北に長いので、我が家のあたりでは2~3月頃には巣作りを始めますが、北の方では当然遅くなり福島では5月頃だそうです…。
 福島の原発事故は3月でした。
 日本中が大混乱のころ、山ではいつも通り春になり、鳥たちが巣を作り卵を産みヒナにえさの虫を運んだことでしょう。
 何度も何度も何度も……。
 ヤマガラの卵の大きさは長径約1.7cm短径約1.2cmです。そんな小さな卵から羽も生えていないヒナが産まれます。巣立つまでの15日間くらいで、体中羽が生え飛べるようになるために、ひたすら栄養のある虫を食べる必要があるわけです。
 人は、放射性物質を浴びた草を牛が食べたと知れば、その牛を食べなくすることができました。でも鳥の親たちはそんなこと知りません。いつも通り、ヒナたちが元気に大きくなるように毎日毎日餌を運んだことでしょう。それを思うと不憫で胸が痛くなります。それは2011年だけではなく、今年、今現在も運んでいることだろうし、放射性物質が消えるまでこれからもずっと続くことです。
 小さなヒナたちがその後どうなったかはわかりません。弱い個体は厳しい自然界では生きていくことはできないでしょう。広い山の中では小さな鳥の姿などすぐわからなくなって消えてしまいます。
 過去にどのくらいの鳥たちがいたかという正確な数字はありません。原発事故の後、鳥の数がどう変化していったのか立ち入り禁止区域以外も正確には調べることもできずまったくわかりません。
 でもデータがないから、なにも無かったということにはならないし、小さな鳥の生き死にが人間社会に直接関係ないからと、無視してよいとも思えずモヤモヤとしているところに
 「今回の事故で人は死んでいません」と東電の関係者が言うのを「はいそうですか」と聞いているわけにもいかず、絵本「おじいさんとヤマガラ」を描きました。
 数字に表れたものしか見ない想像力,創造力の無さが、数字に表れない個性を持った子たちを落ちこぼれさせたり、その不満をいじめに向かわせたり、言われたことしかできない人たちを作ったりといった、今の教育現場のさまざまな問題の遠因なっているのかもしれません。

著者紹介

絵本作家・鳥の巣研究家    鈴木 まもる

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