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エッセー&小論

人も動物もともに生きる地球

フォトジャーナリスト
大塚 敦子
(2013年4月発行 会報第9号より)
子どものころからずっと、本と私は切っても切れない関係にあった。体が弱く、しょっちゅう熱を出しては小学校を休んでいたうえ、友だちが少なかった私にとって、本はいつもそばにいてくれるベスト・フレンド。そして、学校図書館は大切な居場所だった。心がやわらかく、スポンジのように吸収力があった子ども時代に読んだ本は、まちがいなく現在の自分のありようにつながっていると思う。
 いま思い出しても心が震えるのは、新見南吉や椋鳩十、岡野薫子、そして宮沢賢治の本だ。ジャック・ロンドンの小説やシートン動物記などにも夢中になった。どれも人間と自然や動物との関係について深く考えさせられるものばかりだった。地球は人間だけのものではなく、すべての生き物が等しく共有するもの、という私のディープ・エコロジスト的な考え方は、いま思えば、子どものころの読書によって形成されたのかもしれない。
 そのような基礎があったからか、現在の私の仕事のもっとも大きなテーマは、「人を支える自然や動物との絆」である。これまで、非行や犯罪をした人々、あるいは病気や障害、虐待などによって困難を抱えている子どもたちの心のケアに、自然や動物との絆を生かす試みを多く取材してきた。
 昨年出した「介助犬を育てる少女たち」は、非行をしてカリフォルニアの更生施設で暮らす少女たちが、障害のある人のために介助犬を育てるうちに立ち直っていく姿を2年間追いかけたルポだ。
 同じく近著の「やさしさをください」では、虐待やネグレクトを経験した子どもたちに、同じように虐待を受けてアニマル・シェルターに保護された動物たちの世話をしてもらうことで、子どもたちが本来持っている慈しむ心を育てる試みについて書いた。
 人に傷つけられた子どもたちは、当然のことながら、なかなか人に心を開くことができない。でも、動物たちはそんな子どもたちの閉ざされた心の扉をいとも簡単に開けてしまう。なぜ、そんなことができるのだろうか。
 それは、動物は相手がどんな人間であろうと、ありのままに受け入れるからだ。そして、自分に愛情をかけてくれた相手を裏切ることは決してなく、無条件の愛と信頼で応えてくれる。そんな愛し方は人間にはなかなかできない。
 一昨年の東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故では、動物たちが大変な犠牲を強いられた。原発周辺の住民が避難したあと、多くの犬や猫、牛や豚などの動物たちがとり残され、命を落としたことは、書籍や報道をとおしてご存知の方も多いだろう。
 私は昨年1月、原発から4キロのところで保護されたオスのトラ猫を引き取った。置き去りにされたにもかかわらず、人を信じる心を失っていない愛情深い猫だったが、なんとその後飼い主が判明し、再会することができた。元の名前は「キティ」だったこともわかった。
 ふるさとの美しい自然が放射能に汚染され、いつ帰れるのかもわからない……。キティの元の家族と出会ったことで、彼らのふるさとへの思いや喪失の悲しみが、一気に身近なものとして迫ってきた。置き去りにされた動物たちの苦しみにも目を背けることはできない。そこで、原発事故によって何が起こったのかを、キティという一匹の猫の視点から語る本を作ろうと思い立ったのである。
 その後、キティの家族の警戒区域内への一時帰宅に同行させてもらったり、キティを救ってくれた動物愛護グループのレスキュー活動にも同行し、保護した場所を実際に見せてもらったりした。その結果、キティがどんな家でどんな風に暮らし、どのように生き延びて私のもとに来ることになったのか、その旅が一つの線でつながり、写真絵本「いつか帰りたい ぼくのふるさと」が生まれた。
 学校図書館にかかわる方々には、原発事故によって福島の人々や動物たちがどうなったのか、子どもたちにやさしく伝える材料として、ぜひこの本を活用していただきたいと願っている。子どものころに読んだ本がいまも私の心に深く根を下ろしているように、この本が子どもたちの心に残り、二度とあのような悲劇を起こさないための一助になれば嬉しい。

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フォトジャーナリスト    大塚 敦子

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