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エッセー&小論

対談書評が教えてくれたこと

文芸評論家
北上 次郎
2012年12月発行 会報第8号より
雑誌SIGHT(ロッキング・オン)で大森望と対談書評を始めたのは、2001年夏号からだからもう11年になる。この対談書評の連載は、お互いの推薦作を3冊ずつ、それに編集部選の3冊を足して合計9冊を合評していくというものだ(AからEまでの採点表付き)。それはこれまで3冊の単行本としてまとまっている。『読むのが怖い!』(2005年3月刊)、『読むのが怖い! 帰ってきた書評漫才~激闘編』(2008年4月刊)、『読むのが怖い!Z』(2012年6月刊)の3冊だ。最後の『読むのが怖い!Z』は最新刊なので、比較的容易に入手できるだろう。もし興味を持たれたらぜひ手に取っていただきたい。
 「仲良しだけど気が合わない。どこまでいっても平行線。絶対にゆずらないふたりの爆笑トーク・バトル。こう見えても真剣です」
 というのは、最新刊の『読むのが怖い!Z』の帯についた惹句だが、ホントに意見が合わない。私がAをつけても大森はCで、逆に大森がAでも私がDだったりする。いちばん極端だったのは、この対談書評の第1回目の冒頭に取り上げた本で、大森は「AA」評価なのに、私は「D」評価。まったく食い違っている。ちなみにそのときのテキストは、殊能将之『黒い仏』という小説だった。
 これだけ意見の異なる二人が対談することに何の意味があるのか(帯の惹句にあるように、どこまでいっても平行線だし)、疑問に思うところだが、なぜか誌上対談は10年以上続き、単行本も3冊になっている。
 意味はわからないが、私にとってありがたいのは、この対談がきっかけで読むようになった作家が少なくないことだ。たとえば、有川浩『空の中』、村上龍『半島を出よ』、山田詠美『風味絶佳』、池上永一『シャングリ・ラ』、山本弘『アイの物語』など、この対談書評のテキストに上がらなければ読まなかっただろう。なんと危ういことであったか。
 有川浩は『空の中』を読んでいなくても『図書館戦争』では手にしていただろうから、少し遅れて読んだはずだ、ということはある。しかし山本弘はどうだったろう。『アイの物語』を読んでいなければ、はたしてこの作家の魅力に気がついただろうか。
 私も書評を生業にしているとはいえ、すべての本を読むのは不可能である。こうして誰かから教えて貰わなければ一生縁のない本もある。自分一人の選択だと偏ってしまいがちだから、友人知人の推薦はありがたい。雑誌SIGHT誌上の対談は、その貴重な場でもあったりする。
 それに意見が合わないとはいっても、それが当然なのではないか、とも思っている。この対談で取り上げる本の大半が小説ということもあるが、小説ならば評価がわかれるのは当然なのだ。読者が全員同じ読み方をして、さらに全員が同じ評価をしていたら、それはそれで恐ろしい事態だろう。どんな読み方をしてもいいし、どんな評価が下されてもいい。それが小説というものだ。そういう自由な空間にあるのが小説なのである。
 実は私、最初は大森望とあまりに意見が食い違うので、なんだかなあと思っていた。私が傑作だと興奮して話しているのに、それを冷静に、時には冷やかに、私の弁を聞いている大森を見ていると、こいつ、ヘンなんじゃないかと思った。私からすれば、誰が読んでも傑作なのである。それなのに大森は冷ややかに批評するから、このやろと思いますホント。ところが慣れてくると、たまに意見が合ったときのほうがびっくりする。えっ、同じ評価なのかよと驚いて、おれ、読み違えたかなと一瞬思ったりする。
 そういう日々の読書の喜怒哀楽が、この3冊にはつまっている。機会があって読んでいただければ嬉しい。

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文芸評論家    北上 次郎

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