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エッセー&小論

沖縄は「希望をつくる島」 -沖縄で暮らして10年目の手紙-

沖縄子ども研究会代表 沖縄大学学長
野本 三吉
(2012年9月発行 会報第7号より)
 最近の子どもたちは本を読まなくなったといわれている。どちらかといえばテレビやビデオなどの映像が中心になり、漫画や写真雑誌が主流になっている。
 この傾向は、小中学校と続き大学生にも浸透しているような気がする。
 例えば、大学の講義の後、レポートとして参考文献を紹介して、読んでくるように指示をしても仲々読みきれない。
 かつては大学生が岩波新書を読むのは常識で、月に何冊かは多くの学生が読んでいたものだが、一冊の新書版も読みきれない学生がいる。また、文章を書いてもらうとしても手書きが苦手になっている。
 パソコンが発達してきているのでパソコン入力してキレイな活字でレポートを提出するのは大きな進歩なのだが、「パソコン症候群」とも呼びたいような、手書き文字がうまく書けない大学生も多くなっている。
 手書きのレポートや感想を書いてもらうと漢字が書けない学生が多いのに気付く。
 パソコン入力ではすぐ漢字に変換してくれるので覚えなくてもすむのだ。
 また文章も横書きに慣れているため原稿用紙だとうまく書けない。本来日本語はたて書きが自然だったのに、横書きに慣れてしまって、たてだと書けないという学生までいる。
 ぼくは大学での講義も手書きのレジュメを印刷してやっている。読みにくいという学生もいるのだが、序々に慣れてきて講義の感想ふみも長くなり、学生の思いが吐露されるようになっている。
 ぼくは現在、日本最南端の沖縄大学の教員になり今年で十一年目に入る。
 沖縄の青い海と白い砂浜、あざやかな赤いブーゲンビリアにドッシリしたガジュマルの樹に囲まれた沖縄の生活は、アジアとつながった独自の南方文化を大切に、今もユッタリした生活を続けている。
 同時に、第二次世界大戦では唯一の地上戦が行われ、沖縄に住む四人に一人が亡くなるという凄まじい戦場となった島である。
 そして戦後の今も、面積としては日本全体の〇.六パーセントしかない沖縄に、日本の七四パーセントに当たる基地が集中している島である。中でも普天間基地は、市街地の中心にあり、周囲には小中高校、大学や家や商店が並んでおり、もし事故があれば大惨事になる危険性がある。
 そして事実、二〇〇四年には沖縄国際大学に大型ヘリが墜落燃上した。
 そして今また危険なオスプレイを配備しようとしており、全県民が反対をしている。
 今年は、沖縄が日本に復帰して四〇年目に当たる年で、復帰とは何だったのか、沖縄はどんなところなのかを問い直す動きが始まっている。そんな中で、子ども向けの本の出版では大きな役割を果たしてきた理論社から、小中学生向きの「沖縄論」を書いてほしいという依頼を受けた。
 かなり忙しい日常を送っているので無理かなとも思ったのだが、沖縄の歴史・文化そして現状を知ってほしいという気持も強かったのでお引受けした。
 五月の連休から書き始め、ようやく完了したのだが、文字や活字に余り親しめない小中学生にぼくの心が届くには手紙しかないと考え、手紙文による沖縄の本になった。
 横浜に住む、ぼくの友人の子どもに向けての手紙というスタイルで、語りかける感じで書いてみた。教科書のような文体ではなく話し言葉で、自由に書いてみた。
 沖縄はかつて琉球王国という独立した国であったこと。そこでは島人が互いに助け合い協力して生きていたこと。ゆいまーるという文化は、人を排除したり差別する暮らしではなく困った時も助け合っていたこと。
 戦争の中でも、戦後の貧しさの中でも沖縄の人々は「子ども」を授業の宝として大切に育ててきたし、年老いた老人を先輩として大事にしてきたこと。
 人を大切に自然と共に生きてきた沖縄の文化は豊かな踊りや唄、空手やチャンプルー文化、そして食生活をつくってきた。
 結局本のタイトルは『希望をつくる島-沖縄からの手紙』となった。
 手紙は気軽に書け、本音が出せる。
 苦しみや悲しみを祭りの中で融け合わせ、生きるエネルギーに変えてきた沖縄の文化は日本ともつながると思っている。



著者紹介

沖縄子ども研究会代表 沖縄大学学長    野本 三吉

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