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エッセー&小論

『いのち』を取り戻す鍵~ウガンダの戦場から

ヴォーカリスト
鈴木 重子
(2012年4月発行 会報第6号より)
 昨年の11月、ウガンダを旅する機会に恵まれました。JICA(国際協力機構)からご縁をいただいて、紛争のあった北部の様子を視察するためです。
 私は、世界中の紛争地で作られた平和のうたを集める活動をしています。人々の嘆きや祈りの声を聴き、一緒に呼吸することで、『いのち』の尊さを実感できたらという願いをこめて‘Breath for Peace’(平和への息づかい)と名付けました。紛争のあった場所を実際に訪れ、その地の風に吹かれ、ものに触れ、ひとの生の声を聴きたい。活動を始めて以来願っていた夢がかなうことに喜び、感謝するいっぽうで、生まれてからずっと平和のなかで暮らしてきた私に、何が分かるのかという不安もありました。
 ウガンダの紛争は、とても複雑で悲惨な争いです。新しく政権を取ったムセベニ大統領と袂を分かった宗教指導者コニーは、『神の抵抗軍(LRA)』という軍隊を組織してあちこちに点在する村を襲い、家を焼き払い、村人を脅して兵士に仕立てました。その中には3万人以上の幼い少年や少女もいたのです。政府は人々がLRA軍に加わるのを怖れて、200万人以上の住民を国内避難民キャンプに強制的に収容しました。住民は『最大の人道危機』と呼ばれたその戦いの、巻き添えにされたのです。
 首都のカンパラから北へ車で5時間。私たちが滞在したグルという街は、レストランやお店と、ラジオ局やホテルのある、落ち着いたところでした。たった5年前まで、ゲリラの襲撃におびえる何千人という人々が、近隣の村々から毎晩集まって一緒に眠っていたとは、とうてい信じられません。グルを中心に平和活動をしている若い音楽家から、少年兵だったときの経験を聴くことができました。
 「あいつらにとって、人を殺すのはほんとに何でもないことなんだ。ちょっと気にさわれば、横っ面を張るくらいのつもりで、その場で殺す。だから軍隊にいるときは、とにかく言われたことは何でも、すぐその通りやらなきゃいけなかった。ちょっとでも躊躇したり、反抗したりしたら、すぐ殺されてしまうから。あんまり怖いとは感じていなかった。ひどいことが多すぎて、おびえている余裕がない。怖がっていることをLRAのやつらに見せたら、殺されてしまう。誰かが死ぬのは、そいつの運が悪いから。ぼくの運が尽きたら、ぼくも死ぬんだし。まるで人ごとのように、そう思っていた。 今、思い出そうとしてみても、なんだか現実のような感じがしない。まるで、悪い夢の中にいたようだ。」
 彼らに案内されて、何千人もの人が命を落としたという草原を訪れました。慰霊のために建てられた、簡素な鉄パイプの十字架を見ながら戦いの様子を想像してみようとしましたが、どうしてもうまくいきません。なぜこんなことが起こり得るんだろう? ひとはどうして、そんなことができるんだろう?一体、止めることができるんだろうか?どこまでも続く美しい草原の、その先を眺め、答えを求めて長いこと、風に耳を澄ませました。
 翌日訪れた小学校の、子どもたちの目の輝きを、今も忘れることができません。大きな木の下に机を並べて、背中に赤ちゃんを背負った先生と一緒に、一生懸命に英語の教科書を音読する子どもたち。この国の将来を創り、未来の地球を創るこの子たちがもう二度と、争いや飢えに苦しむことなく、幸せな人生を送れますように。そう祈りながら、帰国の途に着きました。
 太平洋戦争から70年。日本では毎年3万人以上が、自ら命を落としています。物質的な豊かさのただ中で、何かが閉塞しつつある今、困難の中にいる国の人々の声を真摯に聴き、共に歩むことが、私たちの『いのち』へのつながりを取り戻すための鍵になる気がしてなりません。助け、助けられることで、この地球はきっと平和な星になる。ウガンダへの旅は、そんな想いを確かにしてくれました。







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ヴォーカリスト    鈴木 重子

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