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エッセー&小論

風を読む、雲を読む

絵本や
梅田 俊作
(2011年9月発行 会報第4号より)
またしては都会に住む孫を捕獲、四国はこの片田舎へ野放しにして楽しんでいる。
 野でマムシに脅され、山でサルに集(たか)られ、ときにはドンブラコッコと川流れ、そのたびパッチリと目覚める脈々と太古より連なるDNA。人は、はや三歳にして晴耕雨読、家にいてごっこ遊びや絵空ごと遊びで、遭遇し体験したあれやこれやを繰り返しては、咀嚼(そしゃく)していく……。
 ここから峠をいくつか越えたそのむこう、NPO法人の「自由の学校」がたんぼのなかにぽっかりとあって、そこでのびやかに遊び学ぶ子どもたちやスタッフの天衣無縫にひかれ二十年近くを通い続けている。
 カリキュラムは、その日の朝それぞれが自分自身で組み立てる。今やりたいこと、興味のあることを、丸ごと認められ保障されて、子どもたちはいつだってはつらつと無我夢中。
 食べられる野草をさがして、畦道で植物図鑑を覗く子ら。
 集団遊びからぽつんとはずれ、コスモスに埋もれて長編本を枕に居眠る子……。
 ここの本棚に並ぶことごとくは、手垢と土にたっぷり染みて反り返り、スルメイカのよう、わたしの晩酌の友と同じく、暮らしのなかに欠かせぬ当たり前として、そこにある。
 三月十一日、震度5強に揺すぶられて、孫は布団にもぐりこみ、そのまま朝まで寝入っていたという。得体の知れぬ天変地異のバケモノから身を守るため、三歳のピカピカにある感性がみずから時計の針をとめたのだろう。以後、彼は時として激しく噴出をする。ありったけの色をまきちらし、描きなぐり。
 被災地の苦難の最中にいる同胞を、ましてや子どもたちのことを思うと、胸がしめつけられる。
 過日、「自由の学校」の子どもらが昼食後、震災や原発にまつわるお喋りに白熱する、その傍らにいた。
「偉そうにしとるあのおっさんらの心は、ガラン洞なんだわ。机の上とかで、きっと紙切ればっか相手にしとるんよ」。
 オレ、あんまり本は読まんけど、風とか雲はいっつも読んどる、と日頃のたまう釣りキチの六年生。思い当たる節の数々が頭をよぎり、わたしは深く首うなだれてタクアンを噛みしめていたのだった。

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絵本や    梅田 俊作

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