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エッセー&小論

光の中のランサム

作家
佐藤 多佳子
(2011年4月発行 会報第3号より)
学校の図書室というと、小学校と中学校が鮮明に思い出される。小学校は公立で、おそらく、その時代の「ふつうの」図書室だったと思う。薄暗く、静かで、独特の威圧感があった。中学年以下の時、高学年の棚は妙に「高尚」で近寄りがたかったものだ。長居して読書した記憶はなく、借りるための場所だった。
 小学校時代はえり好みせずに何でも読んだが、学校図書室で印象的なのは、ラングの〇〇色の童話集シリーズだ。あかね色、すみれ色、きん色などたくさんあり、一つひとつ借りるのがすごく楽しかった。あとは、笑い話、小噺のシリーズが大好きで、今思うと、落語の物語を書く最初の芽だったようだ。
 中学校は私立で、図書室は、部屋として空間としても素敵な場所だった。日当たりがよくて明るく、蔵書は多かったが、ゆったりとしたスペースが設けられていた。自分の人生で最高の図書室はと聞かれたら、迷いなく、中学校を挙げる。そこで本当に多くの貴重な時間を過ごした。書き手としての自分の土台になったのは、ここで出会った本たちだと思う。海外の児童文学の翻訳本。リンドグレーン、C・S・ルイス、ケストナー、ファージョン、ピアス、トラヴァース、ペイトン……。
 「雑食」だった小学校時代とうって変わって、中学校時代は「偏食」になった。普通、子供の本を卒業して、いわゆる小説である大人の本に踏み入る年頃なのだが、私は小説が大嫌いで、児童書ばかりを読み続けていた。大人の本にはなく、子供の本にだけある(と思った)光を追い続けていた。その頑固さはある種の信仰だったと思うし、そうして築かれた価値観を今でも持ち続けている。
 絵のようにはっきりと記憶しているのは、明るい光に包まれた棚に並んだ、アーサー・ランサムの全集である。タイトルに惹かれて借りた『長い冬休み』、これはシリーズ四作目なのだが、決定的な出会いとなった。このぶあつい十二冊の本をどんな勢いで読んでいったか、その世界がどんなに広く強く美しくわくわくと楽しかったか!
 読書は、自分の人生を通じてかけがえのない時間だが、最高に幸せだったのは、中学の図書室で過ごした日々なのである。

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作家    佐藤 多佳子

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