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エッセー&小論

本の虫

歌手・教育博士
アグネス・チャン
(2010年4月発行 会報第120号より)

 私は「本の虫」です。

  香港生まれの私は、六人兄弟の四人目、家には本を買う余裕などありませんでした。

  でも、家の近くに“本の屋台”があり、わずかなお金を払って、屋台のそばで好きな本を読むことができました。兄弟でお金を出し合えば、一晩、本を借りられるようになったりもします。次の日に返さねばならないので、必死でまわし読みをして、徹夜で本を読むのも度々でした。

  親に怒られるので、布団の中で懐中電灯をつかって、読むこともありました。

  今思うと、その頃が懐かしく、愛おしく思います。

  図書館を利用するようになったのは中学生になってからです。

  学校の図書館で、一週間に一冊借りられるので、毎週新しい本を探すのが本当に楽しみでした。

  香港で歌手デビューし、日本で歌手になって大学に入ってからも、私は時間があれば、図書館で宿題をやったり、本を読んだり、昼寝をしたりしました。

  それはカナダへ留学したときも同じです。

  図書館では、多くの友達もできました。

  結婚して、アメリカのスタンフォード大学の博士課程に留学したときには、子連れで図書館に通いました。いくつも図書館があって、広いキャンパスには苦労しました。ようやく必要な本を見つける頃には、子供たちが眠ってしまい、一人では抱っこしきれなくて、家に帰れないときもありました。それもこれも、すべてがいい思い出。本の重さと、わが子のぬくもりがいっぱいの、幸せな時間でした。

  子供たちには、言葉を発する前から、よく本を読んであげました。おかげで、子供たちは、とても早く自分たちで本を読むようになりました。

  漫画やゲームが禁止だった我が家では、子供たちは絵本の世界に没頭、学校に行き始めると毎週、何冊も図書館から本を借りてきては、楽しそうに読んでいました。

  今では二十三歳、二十歳、十三歳に成長した三人の息子たち。みんなそれぞれ「本の虫」です。私は子供たちとよく、本を交換して読んだりもします。

  本の内容について、議論したり、意見を交わしたりして、話題は絶えません。

  私たち親子にとって本は重要なコミュニケーションの道具でもあるのです。

  本のある空間は豊かな空間、気持ちが落ち着く空間です。

  今はインタネットから情報を得る時代ですが、図書館が宝の山であることに変わりはありません。

  これからの図書館がどんな形になるのか、楽しみです。

  私は「未来の図書館」とも仲良くなりたいのです。

著者紹介

歌手・教育博士    アグネス・チャン

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