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エッセー&小論

世はインターネット時代、だからこそ子どもたちに本を

国立天文台ハワイ観測所
布施 哲治
(2009年12月発行 会報第119号より)
 日本へ出張した際、科学館や学校で講演を行うと「どうして天文学者になろうと思ったのですか?」とよく尋ねられます。きっかけは、小学1年生のときに両親が与えてくれた『宇宙』という図鑑です。ハワイ観測所の研究室の本箱に、その図鑑はいまも並んでいます。はじめて手にした年がわかるのは、最後のページに購入日が親の字で書いてあるからです。

 その日付に気がついたのは、東京都三鷹市の国立天文台三鷹キャンパスで大学院生として研究していたときのことでした。巻末のモノクロページに、三鷹キャンパスの航空写真を発見したのも同じときです。「あれっ、いまこの建物のこの部屋にいるじゃない!」これには、さすがに驚きました。キャンパスの写真が印象に残っていなかったのは、カラーの天体写真に比べて見劣りするモノクロページであるためでしょう。

 いまや、いたるとことで「インターネット」や「ホームページ」という言葉を目にします。知り得たい最新の情報にまで、あっという間にたどり着けるのがインターネットの特徴の一つです。内容の更新は簡単で迅速、文字や画像にくわえ、動画も扱える点などが、情報発信側にとっても有益といえます。

 私も、インターネットのユーザーであると同時に、最新成果の情報発信を行う、すばる望遠鏡ホームページの管理責任者です。児童向け『すばるキッズ』も私が作っています。全国の子どもたちから届いた質問に対して、各学年に応じた漢字や表現を使い、実際に電子メールで回答するのも私なのです。

 気をつけなければならないのは、インターネットを通じて素早く得られるデジタル情報は、消失するスピードも速く、長期間にわたって利用するのが難しいことです。新聞を購読していれば、リサイクルに出すまでは、家やオフィスでいつでも読み返せます。しかし、新聞社のホームページに昨日あった記事は、今日には消えていることが多いです。

 パソコンに、デジタルデータを保存したらどうでしょう? 残念ながら、十年後に見られるかどうかはわかりません。デジタルカメラで撮った写真を例にとってみましょう。デジタルデータとして写真を持ち続ける限り、この先ずっと保存状態を気にする必要があります。データを管理するパソコンが壊れたり、ファイルを CD にコピーしても割れたり傷ついたりするかもしれません。CD を読み取る機器が、十年後に正常に動く保証も一切ないわけです。

 その点、写真をプリントして額縁に入れれば、燃えたり水にぬれたりしない限り、何十年も写真を楽しめます。もしも学校の卒業アルバムが DVD になれば、運動会や修学旅行の動画もあって楽しいはずですが、いつ見られなくなってもおかしくありません。これまで通り、紙製の卒業アルバムならば、子どもたちがおじいさんやおばあさんになったときでも、孫たちと一緒に昔を懐かしむことができるのです。

 ある程度の環境さえ整っていれば、何十年、何百年と情報を保てる紙、そして本。歴史を学ぶ過程でわかるように、千年以上も昔の日本の様子を知ることができるのは、和紙に書かれた物語や歌のおかげです。なにしろ、紙の上の文字を読むには、電気も機械も必要ないのですから、まさに時を超えられるともいえます。

 とはいえ、索引がない場合の情報検索の難しさや保管場所の確保など、紙や本にも弱点はあります。これからは、本とインターネットは共存していく時代です。お互いの利点をうまく活かしていくことで、より効率の高い情報発信や保存手段が生まれるでしょう。

 本に熱い想いを持つ私は、理科年表のようなデータブックや専門書にくわえ、二〇〇八年度の小学校高学年向け課題図書になった『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』などの児童書も書いてきました。現在は、二〇〇九年暮れに出版予定の児童書の準備を進めているところです。私には大きな夢、そして願いがあります。それは、私の本を手にした子どもたちが、十年後、二十年後に「この本を読んで、科学者になろうと思いました」と研究室を訪ねてきてくれることです。いまから、楽しみにしています。

すばる望遠鏡ホームページ

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すばる望遠鏡(筆者が空撮)


すばる望遠鏡ホームページ内の「すばるキッズ」

著者紹介

国立天文台ハワイ観測所    布施 哲治

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