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エッセー&小論

天才スイッチ ON!

絵本作家
荒井 良二
(2008年4月発行 会報第114号より)
 絵本を描いているせいか講演の依頼が多いのですが、僕は話すのが苦手なので困ったなあと思って、あるとき苦肉の策で子どもたちと絵を描いたり何か作ったりしたいのですが…と言ったことがあって、それがすんなり受け入れられ、嬉しいやら驚くやらで始めたのがワークショップなんですね。これがまた嬉しい悩みなんですよ!

  最初は、「絵本のようなもの」を作らせることから始めたような気がします。たぶん僕は絵本作家ということになっているんだろうなと思いましてね。で、最初はゲーム感覚で楽しく遊びながら作れたらいいなあと思ってやってましたね。大人だって絵本を作るのは至難の技、プロの人たちだってウンウン唸って(たぶん)いるのにましてや子どもたちには難しすぎるだろうと考えましたからね。だから、絵が得意ではない子にも作れるようにすることが僕のワークショップの基本かな?と思ったんですよ、なぜだかこんなのができちゃったよ!あはははは!なんていうふうに笑えるくらいの絵本を。理由で作るのではなく、そのときの感覚で作る絵本、のようなものを考えていましたね。ただただ子どもたちと自由にお絵描きすることだけはしたくなかったので、楽しめるある小さなルールを作ってね。そう!描くのは苦手でも、切ったり貼ったりするのは得意だよっていう子たちと楽しむためにね!

  例えば、約十五センチ四方の小冊子(八ページから十六ページ)を用意して、表紙から裏表紙まで一本の線を引いてもらうんです。色はなんでもかまいません。まっすぐだったりぐにゃぐにゃだったり…どんな線でもどんな色でもいいんです、とにかく冊子をぐるりと一周、一本の線でくくるんですね。それから主人公の色と形を決めるんですよ。赤い丸の主人公だったら、それを全ページの好きなところに描き込んでもいいし、いろんな素材を用意しているのでそれを好きな形に切って貼ってもいいんです、今日のこの主人公は誰にしようかな?って考えながらね!でもストーリーは考えなくてもいいんです。冊子を見ると一本の線は道のように見えますよ、大地と空の境目みたいですよ、水平線にも見えますよ!あとは好きな素材のものを好きなところにどんどん貼っていくんです、自由に貼ったものがどんどん何かに変わっていくんです!緑のかたまりは森にもなり、青いセロファンは海になる。そこを今日の主人公が歩いてる!ストーリーを考えずとも自然と話がこちらにやってくるよ!小さなエピソードが主人公に寄ってくるよ…!

  こんなふうにいろんな素材を切ったり貼ったりして絵本のようなものを作らせていたのですが、ストーリーに関してはこちらが思ってる以上に子どもたちには作る能力があるんですねえ!大人にはぜったい真似のできない天才スイッチを持っているんですねえ!ムムム、侮れない奴ら!手強いぞ!

  その天才スイッチは絵本を作るためにだけあるんじゃないな、と思い、いろんなことを子どもたちと体験しようとワークショップをやるようになったんですね。グランドピアノに手でペイントしたり(おもしろかった!)三十メートルの長ーい絵巻物を描いたり!大きな布に手で絵の具をひたすら塗ったり!食べられない材料で食堂を作ったり!いろんな形の布切れを絵の具であっという間に染めあげて、カラフルな洗濯物を作って外に干したり!(壮観!)ガラクタを商品に生まれ変わらせたり!まだまだいろいろやりましたね!いろんな所でいろんな子どもたちと!日本にかぎらず外国でも!どんどんどんどん!ね!

  僕のやってるワークショップは、あるきっかけを子どもたちに与えているんだなと思うんです。何かを教えるのではなく、開放する糸口を示してるだけなんですね。見学している大人から見ればどんな意味があるのか答えを探しあぐねているのかもしれません。その答えのようなものは体験した子どもたちにしかわからないのです、この僕にさえも!その感覚は身体ごと記憶されることを祈るだけなんです。やがて彼らが大人になっていろんな形で子どもに接する機会があるときに、何らかの形でその体験の引き出しが自然に開いたらいいなと願うのです。そう思うと、僕の笑えるワークショップは、未来の大人に向かって言葉ではないもので繋がり合おうとしているのかもしれませんね!

  お!またワークショップに行く時間だ!それではみなさん、ごきげんよう!

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絵本作家    荒井 良二

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