色が見えたり色を感じたりするのは、本来、個人の主観的視覚反応の一種です。そのために色を客観的に表わしたり伝えたりするためには何らかの取り決めや約束事が必要でした。ヒトの色覚についての科学的研究の成果として、今では色を機械的に測定したり、デジタルに表示したりすることも可能になりましたが、以前は、色の伝達には、色見本を示すか、その色の名前をあげるか、どちらかの方法しかなかったのです。ところがこのような昔ながらの方法には、今でもまだけっこう需要があります。

　この本は一九九四年のポケット図鑑「色の名前」その後身の二〇〇一年刊「色の名前事典」を増補改訂したもので、元の三九一色を五〇七色に拡大し、それぞれの色見本に対応する和英色名を取り上げ、各色名の意味や由来を三五〇字程度の説明文にまとめたものです。旧著の記述に改定、加筆を加え、色見本の数値もかなり更新してはいるのですが、なんといっても本書の本来の面目は、デジタルな色表示に比べればはるかに曖昧で不正確な「言葉による色表示」の面白さや表現の豊かさを伝えることにあります。それは単なる色の情報にとどまらず先祖伝来の価値観や美意識の文化を物語ってくれます。