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著者からのメッセージ

海底から昔の地球環境を読みとる

   島村 英紀
(2009年12月発行 会報第119号より)
 海の底は「昔の地球」を研究するための宝庫である。

 沿岸部から遠く離れた深さ五千メートルの海底には深海軟泥(しんかいなんでい)というものが堆積している。プランクトンや有孔虫(ゆうこうちゅう)の死骸が多く、顕微鏡で見るとトゲが生えた球だったり角柱だったり、美しいさまざまな形をしている。

 マリンスノーとして海中を落ちていき、ゆっくり海底に堆積したものだ。堆積速度は千年で一ミリメートルとごく遅い。海底で五メートル分の軟泥をとれば、そこには五百万年分の地球の歴史が刻まれているのである。

 たとえば酸素の同位対比から昔の気温が分かる。遠くの陸から飛ばされてきた植物の種や胞子から、どんな植物が生えていたかが知られる。地球の反対側で噴火した火山の火山灰も、成分からどの火山かが特定できる。こうして昔の環境が読みとれるのである。

 ところが、近年はとんでもないものが軟泥に混ざっている。遠い陸地や船から流れてきたビニールの袋や菓子の包み紙などだ。これらは海底で半永久的に残る。食物だと思った海獣が呑み込んで死ぬ例も増えている。

 人類は海底でも地球を汚している。人里からもっとも離れた現場でも汚染を見て、私たち科学者は暗然としているのである。

註)同位対比:同じ元素でも重さ(質量)が違う原子があるのを同位体という。酸素の場合には酸素16と酸素18という兄弟分の同位体があり、これは同じ「酸素」という元素で原子を構成している陽子の数は同じだが、中性子の数が違うので原子としての重さが違っている。この二つの兄弟の割合は気温によって比率が僅かに違ってくるので、昔の酸素を含んだサンプルを分析することによって昔の気温を知ることができる。
寄生虫のふしぎ
地球環境のしくみ
さ・え・ら書房刊
定価1,575円
小学校高学年・中学校

市川 宣子
島村 英紀

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