この本はまず、文様を見て、ムッ！これは何んだ！　この組み合せはどんな意味があるのか？　こんな物まで文様に出来るんだ！　といったところから愉しんでいただければと思います。

　 どの文様も江戸時代の人たちが自分の生活の身近にある、農具や鋏･糸巻きなどの生活用具、折り紙・独楽などの遊び道具、七夕や田植えといった歳事や年中行事、そして昔から伝承されている物語、又、千鳥や鶴･トンボやホタルなどの動物や桜･梅･菊といった植物など、様々な物を文様にした本です。ある意味では｢江戸生活図鑑｣といっても良いでしょう。そしてこれらの文様は、当時の人たちの共通の視覚言語として、互いに楽しみながら、また、自慢したり、得意がって使ったであろう文様です。生活そのものを文様に取り込んで愉しんでいる様子がうかがえると思います。

　 この様な文様の見本帳は、日本だけにとどまらず、当時のヨーロッパで起きていたアール･ヌーボーといった芸術運動にも影響を与えたようです。

　 ブランド商品のロゴマークやキャラクターマークばかりを気にしている現代とは何か心の豊かさの基準が違う気がします。この本からは知識としてではなく、当時の人たちのエネルギーと精神的な豊かさを感じていただければと思います。