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本のかたち

小口とチリ

ブックデザイナー    辻村 益朗
(2006年11月発行 会報第110号より)

 物を切ったその横断面をこぐちといったりしますが、書籍では、背を除いた三方を「小口」と呼びます。小口は天、前小口、地、の総称ですが、前小口のことを略して小口と言うことも多いようです。(挿図参照)また、地のことを少し前まで、「けした」と呼んでいたのは、和本によくある囲み枠(罫)の下、つまり罫下からきたもので、板本時代の職人言葉の名残りでしょうか。

 この小口全部を金色に仕上げたものを「三方金」、天だけの場合は「天金」と呼びます。豪華な感じが出るため、特装版などに用いたりします。小口金は本来、装飾だけでなく、埃避けと耐火の三つが目的だったのですが、いつしか装飾本位になってしまいました。

 ほかに小口の加工法には、染料を吹き付けたものがあり、「小口染め」と呼んでいます。赤や黄色の無地以外にも、ふりかけ技法もあり、これは染料をつけたブラシで、金網の上を擦って細かい粒状模様をつけるもので、「パラ」と呼ばれていました。小口染めは、明るい赤系の色など、どこか愛らしいところがあって、子どもの本にはよく似合うのですが、古書でお目にかかるだけとは残念です。

 ところが、小口染めを、今も続けている珍しい本がないわけではありません。愛称「ポケミス」、H書房の新書版サイズのシリーズです。あの黄色の小口染めは、ミステリーファンを引きつける、何かの役割を演じているのかもしれません。

*  *  *

「チリ」とは、書籍の本体を保護するために、表紙の方が本体より出張った巾3ミリくらいの部分のことを言います。並製本の場合は、表紙と本体は殆ど同サイズです。三方のチリは当然、できないことになります。

 今はチリと仮名を当てていますが、建築用語の「散り」からでた言葉で、例えば柱と壁のような二つの面が、わずかに不揃いで、出っ張ったり引込んだりしている部分の幅を言うようです。

 おなじチリでも同源の「塵」は、わずかな物事のたとえに使われたりします。

小口とチリ

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