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栞は道しるべの標折からきたもので、目標(目印)、つまり標識の意味が文房具の名に移ったものです。たしかに栞は、書物の読みかけや心覚えのところに挟んで、後から開くときの、標識の役割を果しています。
栞については、江戸時代の国語辞書『俚言集覧』太田全斎(1759~1829)編に、「近世文房の具にシヲリといふものあり、綾綺(あやぎぬ)をもって小幅を造り…云々」とあって、その古さが解ります。
本に挟み込む栞は、明治36、7年ころに絹の編物で流行し、その後は様様な材料、形で作られて今日まで続いています。
挿図の栞紐は、本の側に最初から紐の一端をくっつけて簡便にしたものです。この形は戦前の文芸書など、凝った装丁の単行本にはほとんど見当らず、大正3年(1914)刊の『南総里見八犬伝』などの友朋堂文庫には付けられているので、これはシリーズ物に特有の現象かもしれません。
栞紐付きは戦後の本に多く、昭和27年(1952)刊、内田百聞の『阿房列車』(三笠書房)は、巾広の洒落た栞です。
ところで、栞紐のことを製本や編集関係では、スピンと呼んでいますが、これは日本だけの呼称です。栞の英語はbook mark(er)、仏語ではsignetです。スピンをspinに当てると、紡ぐ、回転するで、形容詞形に細長いという意味もあります。が、本の背はスパイン(spine)ですから、どこかで混乱があったものか、或は職人用語の拡散時における転訛だったのかもしれません。
一方、英、仏の一般書に栞紐が付けられた例は、19世紀初め頃から散見されます。もともと古くから、ローマカトリックの典礼書には、ミサの祭儀中に、該当する頁がすぐに開けられるように、色違いの何本かの栞紐が使われていたところから、聖書をはじめ宗教書には多いようです。
フランスの製本師は、16世紀ころから栞紐を付けることもありましたが、仏語signetは、目印のラテン語signumに由来していて、標識の意味では東西の近似が見られます。
さて、最近はこの1本の紐を付けることも製本原価を抑えるために減らす傾向にあって、文庫本などからも殆ど姿を消してしまったのは残念なことです。
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