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本のかたち

ノンブルはフランス語から?

ブックデザイナー    辻村 益朗
(2005年11月発行 会報第107号より)

 本のページの順序を示す数字のことを、編集者や印刷関係では慣習でノンブルと呼んでいます。印刷用語には、本来の語から転訛した職人言葉もあって、その類とも考えられますし、音に近いフランス語かもしれません。

 手もとの『広辞苑』(1955年第1版岩波書店)には[nombreフランス] 数の意 [印刷用語]ページづけ。丁づけ。とあります。そこで、広辞苑の前身『辭苑』(1935年博文館)に当たると、[仏Nombre](英語のナンバー)①書籍の頁の隅に入れる数字。ページ付。②紙幣、商品券、株券等に入れる番号。とあります。辞書ではノンブルがフランス語である由来までは解りませんが、発行年の1935年頃に、使われていたのは確かでしょう。面白いことに、紙幣や株券などに入れる番号もノンブルと呼んでいたことです。

 ところで、紙幣を印刷技術史上で遡って調べてみると、明治初期には、紙幣寮活版局というところで、紙幣と証券、郵便切手などが一手に刷られていました。お札も本も同じ印刷物ですから、印刷術の揺籃期には当然何らかの接点があったことでしょう。印刷術の導入は、諸外国の技術に学びましたので、もし、ノンブルがフランス語だとしたら、フランスとの関係は気になるところです。

 明治23(1890)年に、フランスから輸入された印刷機がありました。マリノニ型巻取紙用活版輪転印刷機がそれで、これこそは、官と民、官報局と朝日新聞の両者によって、日本における大量印刷と、その高速化への第一歩を印した新鋭の輪転機だったのです。導入に当たっては、パリの現地工場で、技術者たちが実際の使用法を習得してきたこと、そしてこの機種が、ロール紙用で「断裁と折り」までこなす、画期的な“ページもの”印刷機であったことでした。この同じマリノニ社製の書籍、雑誌用の活版輪転機も、少し遅れて1904年に入ってきました。

 さて、以上のなりゆきから、輪転機導入を機会に、耳から入ったフランス語が、いつの間にかノンブルとなったであろうことは想像に難くないのですが……。残念なことに、その傍証すら、今のところ見当たらないのです。

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