1. HOME > 
  2. 本のかたち

本のかたち

チャップ・ブック

ブックデザイナー    辻村 益朗
(2009年9月発行 会報第118号より)

 明治時代に、子ども向けの比較的廉価な小型本があったことは前回に述べました。似た類いの、一般向けに作られた安価な小冊子に近い本では、よく知られたイギリスの「チャップ・ブック」があります。

  英国の絵本の歴史を繙くと、登場してくるのがチャップ・ブックです。17世紀頃からあったらしく、歴史上の出来事や民間信仰、笑い話などバラエティー豊かな内容で、18~19世紀へと長い間つくられました。チャップマン(行商人)が商う本であったとされていますが、本とは名ばかりの小冊子で、大きいもので新書判ほど、小さいものでは8×5センチくらいでしょうか。18世紀末から19世紀半ばころのものには、8~16ページが多く、特に物語などには挿絵がいれられたことで、子どもたちも含む広い層に人気がありました。それらのうちから物語の一つ、『巨人退治のジャック』を例にとってみましょう。

  大きさは、9.5×6.3センチで、16ページです。A4より一回り小さい用紙を、縦、横、縦とそれぞれ二つに三回折って出来上がったのが、写真のような 16ページのチャップ・ブックです。普通はこのような畳んだ状態のまま売られ、購入者がノドの部分を糸で綴じてから、小口と天を切り開いて、自分で仕上げたようです。製本が人まかせであったりするところがいかにもチャップマンが扱った商品らしく、綴じないまま、カットだけして読んだ人たちもいたことでしょう。

  『巨人退治のジャック』は、――古代の歴史家たちに賛美された英雄――とあり、少年ジャックと巨人との戦いが面白く語られますが、どの見開きにも挿絵が入っていて、製作者のサービス精神が横溢しています。4センチ四方ほどの小さな木口木版の画は、似たような物語が、複数の版元から繰り返し刊行されるうちに、自然に到着した、単純で大らかな表現をもっています。その愛すべき挿絵は、本の値段とは全く関係ない完成度を見せていて、驚かされます。

チャップ・ブック

バックナンバー

選書リストを見る

新規登録すると…

SLBAに参加登録(無料)していただくと、ホームページからもご注文が可能になります。

学校図書館様向け 新規登録

書店様向け 新規登録

ページトップへ

当ホームページ掲載の記事、写真、イラスト等の無断掲載を禁じます。