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編集者のアンテナ

楽器がうつす人の心

東京書籍    鳥谷健
(2007年12月発行 会報第113号より)
 フルートという楽器をみなさんはご存知でしょう。あの銀色に光る横笛のことです。でもこの楽器の分類は、「木管楽器」ということを知っているでしょうか? 明らかに金属でできている楽器なのに何故「木」なのか? 実はフルートが金属になったのはたった百五十年ほどしか歴史がないのです。それまでは、木や象牙で作られていました。材質が違うと当然音色は違ってきます。例えば、バッハ(一六八五?一七五〇)の時代のフルートは、まさに木でできていたのです。ということはバッハの時代の音楽の聞こえ方はずいぶん今とは違っているのではないか――という発想から、当時の音楽家の環境を研究し、当時目指した音楽をできるかぎり復元して演奏をしようという運動が、二十世紀半ばからはじまりました。それを「古楽」といい、またその当時の楽器を「古楽器」「ピリオド楽器」と呼ぶようになりました。

 この本の著者である、前田りり子さんは、本を書いているから研究者かというと、そうではなく、この木のフルートを使って演奏する演奏家なのです。前田さんは「フラウト・トラヴェルソ」と呼ばれるピリオド楽器の世界でも有名な演奏家として活躍していますが、各国に演奏しにいくたびに、博物館で所蔵している古いフルートを調べまわってこの本をまとめました。いまは滅びてしまった巨大なフルートや、ガラスでできたもの、また大のフルート好きで作曲までしてしまったドイツのフリードリヒ大王のことなど、笛一本に人間の歴史がそのまま流れていることが、本書をお読みいただければわかるでしょう。

 さて、そんな古楽器から聞こえてくる音楽は、どのような音楽なのでしょう? それはいま大オーケストラが演奏するような分厚く、大音量というより、人と人が会話しているような、細かい感情が音にあふれている音楽だったのです。ですから演奏も人の心を鏡に写すような、繊細な表現を必要とします。みなさんも、前田さんの演奏から是非「昔の人たちの声」を聞いてみてください。案外ものすごく新しい感じがするかもしれませんよ。
フルートの肖像 その歴史的変遷
フルートの肖像 その歴史的変遷
前田りり子/著
東京書籍
3,150円

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