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編集者のアンテナ

東洋的な美しさがあふれる水牛の絵本

福音館書店    唐 亜明(たん やみん)
(2007年12月発行 会報第113号より)
 むかし、むかし、山また山の深い山奥に、小さな村がありました。ある日の夕方、やせこけてぼろぼろの服を着た小さな男の子が迷い込んできました。村の人たちはかわいそうに思って、みんなでその子を育てることにしました。名前をニューワとつけました。村の九頭の水牛の世話をするのが、ニューワの仕事になりました……。

 小野かおるさんが中国の桂林の美しい伝説をもとにつくられた絵本です。やさしい文と力強い絵で表現された絵本の世界に、東洋的な美しさがあふれています。絵本作家としての、小野さんの長年のすばらしい仕事の集大成ともいえる一冊でしょう。

 ぜんぜん、自慢話になりませんが、実をいうと、最初にこの絵本をつくろうという話が出たのは、20年以上も前のことでした。当時、小野さんにお会いするなり、「中国で水牛をみてきたのよ。水牛を描きたい! 昔話とかに水牛のおもしろい話はないかな。探してくれませんか」と頼まれました。それから、わたしは水牛関係の本を読みはじめて話を探しました。「光陰矢の如し」とは、こういうときに使う言葉かもしれません。その間、いろいろなことがありましたが、小野さんが水牛を描きたいお気持ちだけは少しも変わっていませんでした。

 関野喜久子訳の「桂林伝説」にあるこの「ニューワと九とうの水牛」の話を読んで気に入ったのは、人間と自然と動物、また現実と非現実との境はまるでなく、互いに自由自在に行き来できるところです。もしかしたら、大昔にそれは伝説ではなく、そのような暮らしが実際あったのではないかと思いました。風光明媚の桂林は、いま世界的な観光地になっていますが、その奇怪な形をした山々から生まれた数多くの伝説が、人々に長く語りつがれています。

 この伝説は小野さんの再話と油絵によって、原作以上のおもしろさがつくりあげられたのではないかと思うほどです。現代社会の喧騒のなかで、目先のことを早くこなさなくてはと、せわしく生きているわたしたちには、ほっとする世界です。子どもの読者はきっと、この絵本から日常と異なる不思議な世界とリズムを発見するでしょう。

 この絵本のページをめくると、魅力的な展開によって心が動かされ、そして歴史と文化、人間と自然、人間と動物、過去と未来、願望と現実に思いを馳せながら、深遠な意味が読みとれるでしょう。
 ニューワと九とうの水牛
ニューワと九とうの水牛
小野かおる/文・絵
福音館書店
1,365円

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