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編集者のアンテナ

「能」の世界に子どもたちが触れるきっかけに

BL出版    落合直也
(2007年9月発行 会報第112号より)
 能の歴史を遡れば、奈良時代に大陸から渡ってきた「散楽」という民間芸能にたどりつきます。能は一般的に日本独自の伝統文化と思われていますが、曲目の中には中国の話も数多くあります。

 観世流の片山清司先生から、能をもっと子どもたちへ伝えていきたいとのお話があり、このシリーズの構想がまとまりました。絵本という、子どもたちにとって身近な手段でストーリーを理解し、イメージをふくらませた上で、能を鑑賞してもらおうという試みです。ガイドブックになってしまわないよう、能をイラスト化するのではなく、お話自体を一冊のクオリティの高い絵本にすることにしました。

 能「隅田川」は、室町時代に舞台で演じるための戯曲として、世阿弥の長男観世十郎元雅によって書き下ろされたものだそうです。

 京に梅若丸という少年がいました。父が亡くなり、母は一人で梅若丸を大切に育てましたが、ある日、人さらいによってさらわれてしまいました。わが子をさがして、たったひとり京から遠く東の国へと旅立つ母。ようやくたどり着いたのは武蔵野でした。その隅田川のほとりで母を待っていたのは、梅若丸の死でした。わが子を求める母の強い愛情と、深い悲しみを描いた作品です。

 絵を描いた小田切恵子さんは、院展にも出展される日本画家です。制作にあたっては、東の国の遠さや、母の苦悩、武蔵野の地のうら寂しさをどのように表現するか、悩まれたようです。小田切さんから届いた十五見開きに及ぶ作品を見たとき、日本画独特の色彩に圧倒されました。繊細なタッチを印刷でどう再現するか、担当者と打ち合わせを繰り返しました。

 日本の伝統文化への注目が高まっている今、このシリーズが、長い間伝えられてきた「能」の世界に子どもたちが触れるきっかけとなってくれればと思います。片山先生は、能舞台に絵本の絵を投影し、その前で能を舞う斬新な試みをされています。能と絵本の融合から生まれる新しい発見にも、期待しています。
隅田川 愛しいわが子をさがして
隅田川 愛しいわが子をさがして
〔観世元雅/作〕
片山清司/文
小田切恵子/絵
BL出版
1,680円

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