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編集者のアンテナ

データが示す台風の変化

山と渓谷社   
(2007年9月発行 会報第112号より)
 山と自然をテーマにした出版社に勤めている関係から、地球環境の変化に関する情報を耳にする機会が多い。

 たとえば冬山。最近は冬型の気圧配置が長く続かず、風雪に閉じ込められることが少なくなったとベテラン登山者は言う。また、山岳カメラマンはヒマラヤの氷河の後退ぶりを写真で証明し、国内の高山植物帯に平地の植物が侵食していることも指摘してくれた。山小屋の主人からは、紅葉の最盛期が年々、遅くなってきたことを聞いている。なにげない雑談のなかに、こうした情報を得ることができるのは専門出版社の強みなのかもしれない。

 『台風学入門』も、そんな雑談のなかから産まれた一冊である。

 著者の村山貢司さんは、NHKのお天気キャスターとして知られるいっぽう、登山家としても豊富な経験の持ち主だ。同じくお天気キャスターの岩谷忠幸さんとの共著で、『登山技術全書⑩山岳気象入門』も著している。

 その村山さんが数年来、注目していたのが台風の話。過去五十年間にわたって台風の発生場所、進路等、データを解析してみると、明らかな傾向の変化が読み取れるのだという。台風が年々大型化していること、発生地点が日本に近づいていること、強い勢力のまま北上し、東北や北海道にも被害をもたらす傾向が増えていること……等々。

 こうした情報を詳しく紹介した書籍は過去になかった。「それならぜひ一冊にまとめましょう」と、企画を通したのが去年の二月。それからは、まさに嵐のような進行で六月の出版にこぎつけることができた。

 全国各地への出張をこなしながら原稿を執筆し、解説のための図版を仕上げた村山さんの奮闘ぶりには今でも頭が下がる思いがする。テレビの気象解説と同様、難しいテーマを親しみやすく説明してくれた本書が、読者の台風災害に対する意識を高め、予想される被害を最小限に食い止める一助となることを願っています。
台風学入門 最新データによる傾向と対策
台風学入門 最新データによる傾向と対策
村山貢司/著
山と渓谷社
1,365円

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