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編集者のアンテナ

中生代へのタイムトラベル

朝倉書店    中村 茂樹
(2006年12月発行 会報第110号より)
  原著『A Field Guide to Dinosaurs』の第一印象は「やりすぎじゃないか」でした。最近の「恐竜本」ではCGを駆使した写真風の仕上げが流行していますが、本書ではこってりした油絵タッチで、色使いもかなり大胆だったからです。
 弊社は自然科学を中心とした専門書出版社です。著者が最初に「フィクション」「エンターテイメント」と断言しているのですから、内心「企画を通すのは難しいな」と感じつつ、恐竜・古生物学関連の出版経験の豊富な小畠郁生先生にご相談しました。

 小畠先生のお答えは明快でした。「ぜひ出版をお勧めします。専門書出版社だからといってそれだけ出していればいいわけではないでしょう。この本は翻訳する価値があると思います。だめなら別の出版社に話をもっていくので、結果を教えてください」。これで心が決まりました。

 小畠先生には監訳をお引き受けいただくことになり、池田比佐子さんに翻訳をお願いすることになりました。池田さんはていねいで、そして純粋な専門書ではないという性格をふまえて柔らかく読みやすい訳文を仕上げてくれました。お2人には感謝するばかりです。

 実際の恐竜学の現場では化石が最も重要な基礎になります。とはいえ、皮膚や羽毛の色や鳴き声などは化石から知る由もありません。恐竜学者たちは、恐竜(の中の獣脚類)の子孫である鳥や、現在の世界で同じような生態系の中の立場を占めている動物の行動を手がかりにして「恐竜とはどんな生き物だったのか」を科学として追求しています。

 科学の枠内にとどまっていないところがこの本の「フィクション」たるゆえんですが、反対にこれはあの動物のこんな行動をあてはめているのではないかと想像することもできます。これも「エンターテイメント」としての楽しみ方のひとつで、恐竜の入門書でもあると同時に生物学の入門書でもあるといえないこともありません。
恐竜野外博物館
恐竜野外博物館
ヘンリー・ジー/著
ルイス・V.レイ/著
小畠郁生/監訳
池田比佐子/訳
朝倉書店
3,990円

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