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編集者のアンテナ

脳とことばをめぐる科学者と文学者の対話

講談社    阿佐信一
(2005年11月発行 会報第107号より)
 この企画は共著者のひとり、安達忠夫先生の発案によるものでした。安達先生はドイツ・北欧文学がご専門の文学者ですが、早くから音読の効用を説かれ、講談社現代新書でも1986年に『素読のすすめ』を出版しています。漢文の素読やかるたを使った音読が子どもを生き生きさせ、ことばの習得や思考力の向上に効果があることは、ご自身の「寺子屋」教育によって実感されていたのですが、それを脳科学の視点から裏付けることができないか、という思いから、ずっと脳科学の動向をウオッチしてこられたそうです。そこで目にとまったのが、川島隆太先生の研究でした。2003年の暮れのことです。

 初顔合わせから意気投合。普通の分担執筆でなく、メーリングリストを使って電子メールを交換しながら1冊の本にまとめてゆくという進め方も、川島先生の発案からその場で決まりました。それからの1年間は、文学者と科学者によるオンライン上の共同作業の場に立ち会え、とても刺激的でした(その雰囲気は本書のなかにも反映しています)。

 最後の仕上げは東北大学の川島研究室を安達先生と編集者(つまり私)が訪ね、実験台となること。機能的MRIの中に入って英語やヘブライ語の文章を聞いたり、「光トポグラフィー」と呼ばれる機械で、李白や杜甫などの漢詩を朗読しているときの、前頭前野の血流を調べたり。ただ、実験と言っても短い時間ですから、大がかりなものはできません。「音読は脳を活性化させる」という結果が出るであろうこともわかっていました。

 ところが――。光トポグラフィーの実験では、同じ音読でも、読み方によって脳の反応に大きな違いがあるという、予想外の結果が出たのです。詳しくは本書をお読みいただくとして、「いい意味で予想を裏切られた」というお2人の対談は、予定調和でなく、とても面白い応酬となっています。編集者としても、最後まで刺激に満ちた本づくりでした。
 脳と音読
脳と音読
川島隆太/著 安達忠夫/著
講談社
735円

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