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編集者のアンテナ

私たちと本との出会い

角川書店    山根 隆徳
(2005年4月発行 会報第105号より)
  私たちが本を手にし、それを読んでみようと思うとき、そのきっかけになるのは何だろうか。大きな理由の1つとして、「タイトル」を挙げることに異論はないだろう。実はこの本のタイトルは、出版ぎりぎりになって決まったものだ。

 「選書」というシリーズを知っているだろうか。「文庫」や「新書」に比べて馴染みは薄いが、主に学術的なテーマについて、専門の学者が一般の読者にも分かりやすいように、詳しく書いた本を揃えたシリーズのことだ。この本も、そんな「選書」の1冊である。

 新米編集者だった私が前任者から引き継いだのは、まず『イワシと逢えなくなる日』という河井さんの本を、角川文庫にさせていただくことだった。その時すでに河井さんはこの本の執筆に取りかかっていた。縄文時代の貝塚からの出土品(例えば、出会うはずのない北の魚サケと南の魚マダイの骨が、同時に出土している)をもとに、当時の魚食の実態、ひいては日本人の食文化のルーツを探ろうというのが新しい本のテーマだ。まだタイトルは決まっておらず、私たちはとりあえず「日本人とさかなの関係」の本、と呼んでいた。

 それまで河井さんは、現実の問題をテーマにした本が多かった。イワシの漁獲高が定期的に上下することに着目した先ほどの本然り、その前には、海ではなぜ魚の死骸を見ないのか、という率直な疑問に取り組んだ『死んだ魚を見ないわけ』という本もある。しかし今度の本は、海洋資源の研究に携わってきた河井さんにとって、いわばその原点ともいえるテーマだ。そのタイトルが『日本人とさかなの関係』ではちょっとそっけないのではないか。あれこれと悩んだ末、「出会い」という言葉を思いついたのは河井さんだった。

 もし1冊の本との「出会い」が、読者にとって、これからの自分と向き合うきっかけになれば何よりも嬉しい。編集者としては、実は密かにそんな思いも込めている。。
日本人とさかなの出会い 縄文遺跡に見る源流
日本人とさかなの出会い 縄文遺跡に見る源流
河井智康/著
角川書店
1,575円

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