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編集者のアンテナ

全ての食は種子に通ず

農山漁村文化協会    松原 喜一
(2011年12月発行 会報第5号より)
「最低限の荷物だけ持ち出すって目的だったが、車に積んだのは98%娘の荷物。あと2%の俺のもの?赤いダイコンのタネだ。外皮だけ赤かったんだが中にも色をつけたくなって選抜して交配して固定して…ここまで12年かかってっからな。皮ごとおろすとほんとにきれいだ‥ことしは大々的に2町歩作付けたいと思って荒れ田の草刈したところだったんだ」原発事故後の放射線に追われて、福島県南相馬市から紆余曲折の末、山梨県に避難した農家の細川勇喜さんが、一時帰宅したのは4月21日。その時に持ち出したのが件の赤いダイコンのタネ。避難先の山梨で5月に播種すると話していました。山梨の土地でどこまで思い通りに育つかは未知数です。「土とタネがあれば百姓は生きられる」たしかにこれが農家流儀の「復興」かもしれません。それにしても山梨でタネを根付かせるには時間がかかるでしょうし、福島では土からの放射線除去という気の遠くなるような作業に孜々として取り組む農家がいます。 2011年2月に第1期5冊が揃った「地域食材大百科」(来春第2期刊行を予定)には、各地の地方品種・在来種が登場しますが、それらすべてが細川さんのような農家の取組みにささえられてきました。近年の農産物直売所の広がりもあってか、各地で地方品種や在来種に光があたっています。たとえば「地域食材大百科」第1巻にある「銀不老」。高知県の大豊町の山畑で採れ、ほとんど自家用で消費されていたインゲンマメの一種です。豆に光が当たると「いぶし銀」の艶を出すから「銀」、「不老」は若さを保つ効果があるからとか。豆の皮が軟らかく、煮付けると味がよくしみておいしい。執筆者で高知県の元生活改良普及員の松崎さんによると「地元だけでは足りなくなって、隣の川根町でも作付けを増やしている」とのこと。食べ続ければ栽培も続く道理。各地の種子が豊かに栽培され続ける世の中であってほしいと思います。
書影
地域食材大百科

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