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編集者のアンテナ

倚りかからず

筑摩書房    中川美智子
(2000年4月発行 会報第89号より)
  「むかし、むかし・・・・・・」と言いたいくらい古い話なのですが、筑摩書房の編集部に、詩人の会田綱雄さんという方がいらっしゃいました。
 真夏には白い半ズボンで悠々と出社され、若かった私は、すね毛に目がいってしまうのに困惑したものです。
 その会田さんが、あるとき、
「あなたに僕の大好きな詩人を紹介しよう!」とおっしゃるので、喜んでついて行きました。それが茨木のり子さんでした。
 きれいなうえに、さわやかで・・・・・・と、木下順二さんがかいていらっしゃいましたが、本当に、しみじみ見惚れてしまう美しさでした。
 すっかりあがってしまって、今では会話のかけらも思い出せません。
 ただ、時間が実にゆったり流れたことと、茨木さんの、もの静かであたたかかった雰囲気ばかりが、胸にポッと残りました。
 三十年後の今も、茨木さんは変わりません。
「水は深いほど音をたてぬ」
という韓国のことわざを、茨木さんは『ハングルへの旅』で紹介されています。
 深い人間ほど静かだ、という意味だそうで、まさに茨木さんのことのようです。
 ギャアギャアと騒々しいばかりで、ハタ迷惑の自分が恥ずかしく、
“自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ”
と、何べん茨木さんの詩を読み返したでしょう。
 いつか茨木さんの新しい詩集を手がけさせてもらえたら・・・・・・と夢を見て、お願いもしましたが、どんなに楽天家の私でも、さすがにそれは無理かもしれないと思いました。
 詩集専門の出版社との縁があるからです。
 金善慶さんの童話『うかれがらす』の翻訳や、エッセイ集『一本の茎の上に』を刊行しているうちに月日は過ぎ、ある日、ふと茨木さんが 「詩集、お願いしようかしら・・・・・・」
とつぶやかれたのでした。
「ダメだったら、遠慮なく言ってね」と原稿をくださって、ダメどころか、十五篇ぜんぶ、つぶのそろった真珠のようで、こみあげるものがありました。見本を届けたときも泣いてしまい、こんな本は初めてです。
倚りかからず
倚りかからず
茨木のり子/著
筑摩書房
1,890円

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