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編集者のアンテナ

過程で育つ本への愛情

アリス館    山口 郁子
(2011年9月発行 会報第4号より)
 「学校ってこんなところ!」そんな本を作りたいと思っていたところに、ある日、お会いしたことのない写真家さんから、郵便が届きました。送り主はユニークな企画で写真絵本を出しておられる、川島敏生さん。以前、雑誌に掲載したものを、本の形にできないだろうかという提案です。
 小学校の教室を定点撮影し、時間軸で見ていくその企画は、とても新鮮でした。私も小学生の様子を知りたいと機会があるたび訪問していましたが、学校の日常は校舎の中で、外からは見えにくいものです。入学前の子どもたちでも、それは同じでしょう。また、小学生の子どもにとっても、他の学校を知ることは、自分を見直すきっかけになります。よい本ができると確信し、新たに取材して撮影し、まったく新しい本を作ることにしました。川島さんとは「読者が共感できるように工夫しましょう」と、何度も話し合いました。「授業の内容がわかるようにする」「子ども達の個性が出るようにアップの写真も使う」など。
 取材先は小平市の小学校になり、何度か撮影しましたが、一番楽しく撮れていたのは一回目。「だいたいそういうもんなんだよね」と川島さん。それにしても、子どもたちの表情やしぐさの愛らしさ、靴を落としたり友達とふざけたり…ハプニングの連続には驚きました。一年生は、まだ本当に自然体なのだと改めて思いました。通ううちに子どもたちの顔も覚え、会うのが本当に楽しみでした。
 編集をしている過程で、しだいに本への愛情が育ちます。作者の方の本への思いを受けて、編集者なりにそれを育てるといった感じでしょうか。この本は、撮影準備や写真の選択、文章の推敲やデザインなど、二年近く。長い時間がかかりましたが、価値ある経験ができ、本への愛情が深くなりました。愛情をかけた本が読者の手に渡る、それはなんともいえない喜びであり、編集者の糧になるのです。
書影
1ねん1くみの1にち

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