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編集者のアンテナ

「銀花」編集部と交わした、緒形拳さんのメッセージ

文化出版局    青戸 美代子
(2011年9月発行 会報第4号より)
 「萩原さん、俺が悪かった」と律儀な文字が並ぶ、一枚の愛読者カード(季刊「銀花」第九十四号、一九九三年発行)が残されている。当時、季刊「銀花」では、「墨童・緒形拳ひとりがたり」と題し、俳優、緒形拳さんが手がける書と無二の生き方を紹介する連載を、進めていた。〝萩原〟というのは連載の担当者であり、彼女は第百八号まで、編集長を務めた。
 俳優としての魅力は多くの人によって語り継がれているが、一方で緒形さんは、〝一人の時間〟を大切にした。若い頃からよく本を読み、書画にふれ、自らも筆と墨で心遊ばせた。
 愛読する雑誌に、「銀花」があった。毎号寄せられる愛読者カードの中に、緒形さんの名前を見つけたのは、いつの頃だったろう。最初は恐らく半信半疑、しかし編集部はやがて、小さな紙面に躍る独特の筆遣いや記される一言に、名優の意外な一面をみとめ、気がつけばそれらを大切に保管するようになる。都内のギャラリーで、緒形さんの書の展覧会が開催されることを知った萩原が、思い切って緒形さんに手紙を送り、間もなく誌上にその世界を登場させることがかなう。連載が進むにつれて萩原は、緒形さんとの間に強い信頼関係を結び、誌面展開についても一任されるまでになっていた。ところが突然、それが崩れた。言葉の解釈をめぐって、行き違いが生じたようだった。しかし、意を尽くした手紙のやりとりが交わされてしばらくすると、冒頭の一枚が、編集部に届けられたのだった。
 無駄な言葉一つなく、ましてや言い訳めいた一言も記されていない。直球がそのまま運ばれて、編集部全員の心を強く打った。
 二〇一〇年二月、創刊四十一年目を迎えた季刊「銀花」は、第百六十一号をもって、休刊することになった。その二年前の十月、緒形さんは急逝。保管していた五十数枚のカードを主人公にして、一冊の本を企画した。編集長の末席に名前を連ねた私が担当し、昨年十月に発刊。緒形さんの三回忌に寄せた一冊となった
書影
緒方拳からの手紙

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