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編集者のアンテナ

「で」三つです。

新日本出版社    丹治 京子
(2010年9月発行 会報第1号より)
 「いえでででんしゃ」は、家出をした子だけしか乗れない電車です。

 この連作の一冊目『いえでででんしゃ』は、二〇〇〇年九月、いまから十年前に刊行されました。あさのあつこさんから、ある日突然のように届いた原稿です。ベストセラーとなる「バッテリー」の刊行が始まってすでに何年かがたっていました。

 当時、社内でよくあった表記間違いは「いえででんしゃ」。そう、正しくは「いえでででんしゃ」です。「で」が、三つつづきます。なぜ「で」が三つもつづくのか――「読みづらい」、「わかりにくい」、「意味がわからない」との意見が出たりしました。

(意味、大ありなのに!)私は心の中で叫んでいました。「家出をする」という意思をもち、「家出をした」と自覚する「子ども」だけが乗れるのが「いえでででんしゃ」です。三つつづく「で」の二番目の「で」には深~い意味があるのです。こんな奇妙な名前の電車をどうやったら思いつくことができるのでしょう。あさのさんは、やっぱりすごい。

 もうう~んと昔の遙か彼方になってしまいましたが、少女の頃、確かに「家出したい」と思ったことがあったような気がします。この家の子でなくなることへの覚悟などないくせに、それでもどこかで疼く「家出」への憧れ。「大人の価値観」を押しつけられることへの反発。あの時、「いいよ。どこにでも行きたいところへ連れて行ってあげる。でも、帰りたい時にはいつでも帰っていいんだよ」と言ってくれる「いえでででんしゃ」がいたら――幼い孤独はずいぶん慰められたのではなかったか。

 『いえでででんしゃはがんばります。』はシリーズの三冊目です。イラストは「バッテリー」でもあさのさんとタッグを組んだ佐藤真紀子さん。幼い愛息子・Hくんの子育てに楽しみつつも格闘しながら、目を瞠るような集中力で本作に取り組んでくださいました
だんろのまえで
いえでででんしゃはがんばります。

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