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編集者のアンテナ

そのまたまえに、何をしていたか、おぼえていますか?

小学館    喜入 今日子
(2009年9月発行 会報第118号より)
 この本を、はじめて見たとき、あれ~?とふしぎな気持ちになりました。

  絵本というのは、普通は左から右にストーリーが、進んでいきます。それなのに、それなのに、この絵本、女の子が右から左に走ってくるではありませんか。そう、絵本の定石を破り、逆方向に向いているのです。

  作者のアルバーグさんに「どうしてこんなユニークなお話を思いついたのですか?」と質問しますと、こんな答えが返ってきました。

  「最新作は、『えんぴつくん』(小学館刊)っていうんだけど、人間やいろんなものを描いて世界を作りだしたえんぴつくんと、それを盗もうとする消しゴムがけんかする話なんだ。その『えんぴつくん』の“そのまたまえに”書いたのが『そのまたまえには』なんだよ」となんともややこしいお返事。

  「『えんぴつくん』のそのまたまえに描いた『そのまたまえには』は、お話がどんどん前にもどっていくお話で、世界の始まりまでひっくり返ってさかのぼっていくんだ」。

  つまり、『そのまたまえには』で、世界の始まりにもどり、『えんぴつくん』でまた世界を創ったということ。

  詩や言葉遊びの絵本を翻訳するのは、文化の違いもあり、とても難しいものです。しかし、アルバーグさんの絵本は、たんなる言葉遊びを超えて、深いところで、世界に向けてのメッセージが感じられ、とてもユニークなものに仕上がっています。この絵本も、誰もが知っている昔話の“そのまたまえ”を想像して楽しみ、最後は世界が生まれるところにたどりつく。世界の始まりから、お話も生まれてくるんだよということでしょうか。

  アルバーグさんは、原書の最後に読者に向けてお茶目なメッセージを寄せています。それは、英文のさかさま言葉で書かれています。日本語にすると「うとがりあてれくてっか ねでんしのた」といったところでしょうか。

  今年七十一歳になる巨匠が目を細めてくすくす笑っているところが目に浮かぶようです。あわてふためき前のめりの現代人、ちょっとふり返ってみる余裕も大事。作者のくすくす笑いが、読者にも伝わることを願っています。
えんぴつくん
えんぴつくん
アラン・アルバーグ/作
ブルース・イングマン/絵
福本友美子/訳
小学館
1,575円

そのまたまえには
そのまたまえには
アラン・アルバーグ/作
ブルース・イングマン/絵
福本友美子/訳
小学館
1,575円

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