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編集者のアンテナ

ハッピーバースデー 命かがやく瞬間

金の星社    斎藤裕子
1999年4月発行 会報第87号より
  「2作目も、楽しく一気に読めるものでいきましょう! テーマは、生と死、命で。」

 忘れもしない1997年5月25日、私は青木和雄先生に新作をお願いすべく、宇都宮にむかった。子どもたちが1冊の本を選ぶ「宇都宮子ども賞」(先生は「宇都宮子どもショー」と勘違いされ、なぜ自分が・・・としばらく考えていらしたらしい)を、前作『ハートボイス いつか翔べる日』で受賞された日のことだ。参考に新聞のコピーを一枚渡し、あとはよろしく・・・まったく編集者とは勝手な職業である。「この人は笑いながら、大変なことをいいだしたと思った」と、今でも先生にからかわれる。

 9月、『ハッピーバースデー 命かがやく瞬間』の原稿がきっちり締切日にあがってきた。一気に読みおえる。興奮した。泣いた。命の尊さ、生きることのすばらしさ、生きる支え、そういうものがぎっしりつまっていた。

 先生との出会いは、1996年の6月にさかのぼる。アニメ映画の原作本を出してほしいと、某プロデューサーと一緒に来られたのが青木先生だった。お持ちになった三作の短編をもとに『ハートボイス』ができあがる。この時は、「こんなこと現実にあるかね」と思いながら編集したものだが、事実は小説よりも奇なり、物語は先生のカウンセリング体験から生まれたものだった。

 母親から精神的虐待を受け、声をなくす、『ハッピーバースデー』の主人公あすかも、四歳の少女がモデルになっている。結局、前作の映画企画はボツになったが、『ハッピーバースデー』の方は、たまたま書店で本を見た別のプロデューサーにより、1999年6月アニメ映画が完成する。

 そのシナリオ検討会でのこと。脚本に先生からクレームがついた。「勝ち負け」や「頑張る」という言葉があったからだ。「本にはいっさいそういう言葉はつかっていないので・・・。」この時初めてそれに気づく、のんきな担当者であった。「本を読んで初めて泣きました。」「生きる勇気をもらいました。」毎日のように届く、子どもたちや、学校の先生からの手紙を見るにつけ、青木先生との出会いこそ、私にとってひとつの「命かがやく瞬間」であったと、今思いかえしている。
ハッピーバースデー 命かがやく瞬間
ハッピーバースデー 命かがやく瞬間
青木和雄/作
加藤美紀/画
金の星社
683円

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