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エッセー&小論

〈本と人形の家〉のこと

作家
松谷 みよ子
(2005年4月発行 会報第105号より)

 第4を除く毎週土曜日〈本と人形の家〉は開館する。33年経ったいま、屋根を葺替え、鎧戸を新しくし、絨毯を敷き替え壁も塗り直しすがすがしくなった。しかし1972年開館した当時は子どもも多く、土曜日ごとに100人近い子が詰めかけたものだが、いまは親子で30人から40人くらいだろうか。

 2時になると20年余ボランティアで文庫を支えてくれている下村澄子さんの手遊び、童うた、小さな人形を使ってのおはなしが始まる。そのあと、33年間紙芝居を演じ続けてくれている水谷章三さんが拍子木を打つと子どもたちから拍手が起る。私と水谷さんはむかし、劇団太郎座で同じ釜のめしを食った仲間で、いま彼は日本民話の会の事務局長。こうした仲間たちがあって文庫は支えられてきた。

 夏には〈本と人形の家〉で語りの勉強をしている日本民話の会の仲間による夕涼みの会が開かれる。黒幕で囲った舞台に縁台を置き、すすきを活けて昔ばなしが始まる。3つ4つの子まで集中してよく聴いてくれる。30余年、この空間で人形劇や語りを開催してきた伝統かなと思う。年々子どもたちは成長し代替りしていくのに、文庫の子たちはよく聴く。会が終ると、灯を点した盆提灯を手にした子どもたちが帰っていく。灯籠流しのように美しい。至福のときである。

 暮には人形劇が上演される。そもそも〈本と人形の家〉と名付けたのは、本があって人形劇が楽しめる家という意味だった。住宅地の中の小さな小さな劇場。

 こう記すとずいぶんいろいろイベントがあるようだが、もともと本があって猫なんかもいて、日和ぼっこするような呑気な文庫の出発だった。それはいまも変らない。ただもうひとつ、この建物は日本民話の会の語りの勉強会、外国民話の研究会、編集会議などなどの場になっている。師・坪田譲治が1960年自宅庭に〈びわの実文庫〉を創設したときも、子どもたちの文庫であると同時に、若い作家の勉強の場であり、編集会議の場であった。師が先達となって歩いた道を私もまねっこして歩いている、という思いが深い。そしてそれができたのは、多くの仲間の支えがあったればこそだった。

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作家    松谷 みよ子

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