本が好きです。特に読書家と言えるような私ではないですし、名作集と言われている作品もほとんど読んでいない私ですが、本が好きです。
　コンサートをするために旅に出ます。年間、何十日も旅をしますので、その移動中は絶好の読書時間です。CDを聞くこともありますが、何か一冊本をトランクの中に入れて行きます。そのために本屋さんでは、何冊かの本をまとめ買いして、部屋のすみに「コレは近日読む予定本」というコーナーを作り並べています。
　近年は友人達から贈られる著書も多く、その棚はありとあらゆる分野の本で溢れています。「次は僕を旅のおともに連れて行ってね」と言っているように。そして、旅から戻り読み終えた本は、アトリエの本棚に並べています。「お疲れさん。またいつか会おうね」と言いながら。そんな時、幼い頃を想い出します。
　私は、小学生の頃、いつも図書委員をしていました。衛生委員と図書委員は絶対に譲れないと思っていましたから。色々な分野の棚を眺めながら行くと必ず難しそうな本があって、そっと手に取るとチンプンカンプン。でもそれが面白くて、またしばらく行くと、今度は不思議なタイトルが目に入って来て、手に取ると、時を忘れて読んでしまうこともありました。幼い日の私は、放課後の図書室で、一人そんな不思議散歩を楽しんでいました。空想好きな子でしたから、図書室はそんな私の絶好の遊び相手になってくれたのでした。
　だから、私は本が並んでいる空間が好きです。自宅の本棚には、幼い頃からの愛読書が今でも何冊かあります。そのコーナーには息子に毎晩、読み聞かせした本もあって、少しヨレッとした所がたまらなくいとおしいのです。子供というのは同じお話が好きですからね。二人で手をつないで新しい本を買いに行っても、また「あの話も読んで」と言うのです。その本たちはまた、孫にも読んであげました。
　本を読み聞かせていると、「どうして？」とか「あのね」と色々な会話が生まれます。私はそんなひと時が、とても好きで大切だと思っていました。働く母でしたから、いつも側に居てあげられるわけではありませんでした。だからこそ、どんなに疲れていても、決して無くしたくない時間でした。眠る前のひと時を、こんな風に静かに語らい、笑い、時には話が止まらなくなることもありました。そして、そんな時は決まって、「僕ね、きのうね、友だちとケンカしちゃって…」と幼い息子や孫の口から本音の言葉がポロポロ飛び出すのでした。母ですから何となく様子がおかしいと氣づくのですが、そんなときでも、子どもはなかなか話してくれないこともありました。でも、本を一緒に読んだあとは心を開いた会話が沢山生まれたのです。
　そして、その流れはオトナになった今も続いています。成長過程で少々無口な時期もありましたが、大切なことはいつも話してくれました。本を囲んで話したあのひと時は、本当に宝物だったと思っています。オトナも子供も忙しいこの時代において、本は心を共有するのに大きな力となってくれるのではないでしょうか。私は自分の本を書く時も、そう思いながら創っています。
　今年は「国際生物多様性年」です。私は、2004年からIUCNの親善大使を務めています。その活動の中で、「生物多様性」という言葉を、もっと広い世代の人々に伝えたいと思いました。そこで創ったのが「新羅万象」というCDと「まあるいいのち～ノエルの不思議な冒険」という六冊目になる絵本です。
　ノエルちゃんは一冊目の絵本の主人公ですが何と33年振りの復活ですから「親子三代に渡って読んでます」と言って下さる方もあり、大変嬉しく思っています。この絵本には、漢字も多く使われています。読めない字を「何て読むの」とオトナに聞くことがきっかけとなり、そこから一緒に共有できる時間が生まれてくれたらいいな…と思っているからなのです。本を囲んで、少しでも多くの会話が生まれてくれたら、きっと未来が輝いていくのではないでしょうか。ゲーテ先生もおっしゃっていますよね「会話は黄金である」と。
　本は一人の心を受け止めてくれます。誰かと共有できる場も創ってくれます。そして、世界中の人々とのコミュニケーションの場ともなってくれるのですから、まさに、みんなをつなげてくれる宇宙なのですね。時を越えて。