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エッセー&小論

いちばん親しめる場所だった

作家
三木 卓
(2004年6月発行 会報第103号より)

 不登校にはならなかったが、いつも欠席がちで、学校があまり好きではないこどもだった。左足がポリオで不自由だった上、小学校だけで6回ぐらい転校したせいではないかと思う。そのなかには、世界大戦後の中国からの引き揚げもあって、今でいえば帰国子女のはしりである。

 そういう子にとって、小・中・高を通じて、学校図書館はいちばん親しめる場所だった。本のある家に育ったからかもしれない。亡父の中国時代の蔵書と同じ本が図書室にあったりした。

 司書の先生は、授業と関係がなかったから、年上のお姉さんのような気がして、話をすると心が和んだ。中学のころは勝手に出入りして、自分の部屋の気分でいた。そこで乱読した本が、あとでずいぶん力になっている。

 司書の先生のお手伝いをしていると、いろいろ知識もたまる。とてもよかった。

 そういう人ぎらいの孤独な子がいたら、ちょっと面倒を見てやってください。

 終戦直後の学校だから設備は貧しい。でも高校の図書室には、最新の「ニーチェ全集」も入っていたけれど、「国訳漢文大成」なんていう蒼然たるシリーズもあって、それを次から次へ熱心に通読している同級生がいた。ぼくはたまげながら、自分はこんなことでいいのか、と思った。

 ぼくがロシア文学なんかを専攻することになったのは、高校の図書室に、新刊の『マヤコフスキー詩集』が入ってきたことと関係がありそうだ。訳者は小笠原豊樹(岩田宏)で、当時かれはまだ東京外語大の学生だった。ぼくより3つ年上なだけだ。そういう青年がもう現代文学の注目詩人をどんどん訳している。真っ赤な表紙の本を見ながらとても刺激された。東京はすごい。

 今の新刊書店は、昨日今日の新刊しか置いてない。新刊だけでなく、古い、いろいろな本に出会える場所が図書館である。文化の厚み。その大事さを、こどもたちに教えてやって欲しい。

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作家    三木 卓

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