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紙いろいろ

繊維をドンドン叩いていくとどんな紙になる?

紙エッセイスト    植地 勢作
(2011年9月発行 会報第4号より)

―グラシン紙の話―
 子供の頃、紙風船のおまけが楽しみで、富山の薬売りを待ちかねたという記憶がある。紙風船はゴムマリと違って大きく跳ねるわけではない。撞くと、ふわりと上がってゆっくり落ちてくる。それをまた撞く。そのうち少しずつ空気が抜けて撥ねなくなってしまう。
 ところで、昔懐かしい紙風船はどんな紙だったのだろうか。紙ならなんでもよいといういい加減な話もあるが、私の記憶に残る紙風船は「グラシン紙」でなければならない。今でも、「昔ながらの紙風船」の材料はグラシン紙である。
 昔、和紙づくりが盛んな頃、原料楮などを叩く「紙(かみ)砧(きぬた)」という言葉があった。これは、叩解(こうかい)といって、楮などの紙漉きの原料を木の棒や槌で時間をかけて叩く作業である。この作業によって繊維が短く切断され、紙が漉きやすくなるばかりでなく、紙の特性が大きく変化していく。
 ところで、極限近くまで繊維の叩解を進めていったらどうなるであろうか。グラシン紙は、粘状叩解によって繊維の形が見えなくなるほどに叩解された上で抄かれ、さらに熱カレンダーで押しつぶされた紙である。密度が高く、透明性が上がり、油を通しにくくなり、しかも透湿性に優れるという性能をもつ紙である。紙風船はグラシン紙のこの特性を活かしたというわけである。また世の中では、この特性を活かしてバターや高級まぐろの包み紙、薬の包紙、窓開き封筒、粘着テープやラベルの剥離紙など幅広く使われている。最近あまり見かけなくなったが、本のカバーに、あるいは本文に挟まれた写真がくっつかないようによくグラシン紙が間に挟まれていたのを目にしたことも多かった。
 わが国ではグラシン紙は昭和8年頃に開発された。従って、紙風船がグラシン紙に変わったのはそれ以後ということになる。江戸時代にも紙風船はあっただろうが、その紙は、繊維が細く、機密性に優れた雁皮紙であったのではなかろうか。
(キュレーター、紙エッセイスト)

図1
昔ながらの紙風船
図2
紙砧の図(『紙漉き重宝記』)

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