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紙いろいろ

‘ワラ半紙’と‘ザラ半紙’

紙エッセイスト    植地 勢作
(2011年4月発行 会報第3号より)

 誰しも懐かしく思い出す紙に‘ワラ半紙’がある。今回は‘ワラ半紙’のルーツを探ってみよう。
 ある時、仙台のある放送局から「ワラ半紙のことを福島県ではザラ半紙と呼んでいるそうですが、間違いでは?」という質問を受けた。実は、‘ワラ半紙’は明治時代初期に生まれ、その中身は大正中頃には ‘ザラ半紙’に置き換わっていたのである。
  ‘ワラ半紙’とは木綿ボロに稲ワラを配合した紙である。わが国に洋紙が導入された明治初期の紙の原料はボロ布(主に木綿のボロ)であった。“文明開化”の進展とともに原料が不足し、登場したのが稲ワラである。稲ワラは紙幣用紙にも配合されているが、この話は別の機会に譲る。稲ワラは繊維は短いが、ケイ素分が多くインクが裏抜けしないという優れた特性を持つ。ボロ布に稲ワラを多少配合しても実用上は差し支えない。今でもケント紙や高級画用紙の主原料は木綿ボロの親戚ともいえるコットンリンターである。もっとも、化繊が普及した現在ではボロ布を配合した紙はルーフィング用紙など特殊な用途に限られている。
 木材繊維を機械的にほぐした砕木パルプを主原料とする新聞用紙などを‘更紙(ざらがみ)’という。これを半紙の寸法に切ったものが‘ザラ半紙’である。わが国では明治22年(1889)に木材パルプの製造が始まった。その後、ワラは砕木パルプに、木綿ボロは化学パルプに置き換わり、大正時代の中頃に‘ワラ半紙’はほぼ消滅したが、呼称はそのまま残ったということである。
 最近ではラベルに‘ワラ半紙(ザラ半紙)’と表示し、わざわざ断っている。私たちは‘ザラ半紙’を‘ワラ半紙’と思いこんでいたのが真相である。
 和紙の世界では、正倉院御物の中に「清葉藁紙」(天平勝宝6年(762))というワラを配合した紙が出ている。今でも書道半紙や画仙紙など稲ワラを配合し、稲ワラの特性を生かした紙があることを付言しておく。

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