1. HOME > 
  2. 紙いろいろ

紙いろいろ

糊はなくても紙はできる

紙エッセイスト    植地 勢作
(2010年12月発行 会報第2号より)

 水に分散させた植物繊維を掬いあげ、絞り、乾かすと紙ができる。植物繊維を水に分散させることを「水に溶かす」と言ってしまうが、繊維は砂糖や塩のようには水にとけないので、正しくは「水に分散させる」と言う。繊維(セルロース)は多数のグルコース(ブドウ糖、C6H12O6)が直鎖上に重合したものである。グルコースは水に溶けるが、グルコースの高重合体であるセルロースは分子量が大きいので水には溶けない。
 糊を使わなくても紙ができる仕組みを考えてみよう。セルロースは多数の水酸基をもっている。紙の結合力は主に水酸基の水素結合による。その結合力は共有結合には及ばないものの、分子間引力(ファンデルヴァールス力)よりはるかに大きい。タオルを絞ったまま放っておくと、そのまま固まってしまう。これが水素結合のなせる技である。
 繊維は紙抄き槽の中ではバラバラに浮かんでいるが、抄造・脱水・乾燥の過程で繊維間に介在していた水分子が減少し、最終的に繊維同士がO・・・H―Oという水素結合をして、紙ができるということになる。もっとも、紙は乾燥しすぎるとパリパリになってしまい、強度も落ちる。紙のしなやかさや強度を維持するには繊維間にいくらかの水を残しておき、線維と水との水素結合も必要である。
 しかし、すべての紙は糊を使わなくてよいというわけではない。トイレットロールは糊をほとんど使わないので水に浸ければすぐバラけてしまう。牛乳パックは耐水化剤という糊でがちがちに固められているので水を受け付けない。昔の新聞は油性のインクによる活版印刷によったので、耐水性は要らず糊は必要なかったが、現在ではオフセット印刷なので耐水性を付与するため糊の配合は必須である。このように紙の種類や用途に応じて使用する糊の性質・多寡はさまざまである。糊の配合の有無や多寡という目で紙を眺めると面白い。

バックナンバー

選書リストを見る

新規登録すると…

SLBAに参加登録(無料)していただくと、ホームページからもご注文が可能になります。

学校図書館様向け 新規登録

書店様向け 新規登録

ページトップへ

当ホームページ掲載の記事、写真、イラスト等の無断掲載を禁じます。