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著者からのメッセージ

『変わりゆくもの、残るもの』

   市川 宣子
(2009年12月発行 会報第119号より)
 「生まれて最初にすいこんだ空気は、一生肺の底に残っているのだ」と、この話を書くまで信じていました。調べてみたら、ただの勘違いだったようです。どうも生来、思いこみが多くて、非科学的非論理的です。
 空気が残るどころか、人の体は刻一刻変わっていく、三ヶ月もたてば細胞さえすべて入れ替わるそうです。

 細胞が変わるためか、人は、気持ちもまた、日々うつろっていくようです。友達でも恋人でも、もしかしたら親子でも。

 変わらない思いを信じていたころもありました。変わってしまうことが、せつなく、空虚に思えたころもありました。

 が最近、どうやら、忘れられた「思い」にもたしかな重さがあって、時の流れの彼方に沈んでいるらしい、と気づいてきました。

 もう思い出すことはなくなっていても、いつかだれかに大切にされたあたたかさは深く残り、細胞が何百回入れ替わろうとも消えることなく、その人の人生を底から支えていく。だれもがそうして、自分では気づかないまま、失われたたくさんの思いに背中をおされて歩いている。

 これだけは、非科学的でも非論理的でもない事実のような気がして、勘違いを乗り越えてこの話を仕上げるよすがとなりました。
寄生虫のふしぎ
青い風
佼成出版社刊 1,155円
小学校低・中学年

市川 宣子
市川 宣子

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