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本のかたち

写本

ブックデザイナー    辻村 益朗
(2008年4月発行 会報第114号より)

 私たちの周りにある本は、ほとんど印刷して製本された「印刷本」ばかりですが、ほかに、「写本」と呼ばれる特殊な本があります。書誌学的な言い方では、写本とは、「手書きした本」の意味ですから、書や画を含むさまざまな人の手で書かれたもの、纏った作者自筆の原稿なども、新古を問わず写本の部類に入ることになります。

  ところで、全く同じものが二作とない「写本」と、複数で量産が可能な「印刷本」とが、ある時代を境として入れ替る訳ではありません。そのあたりを、日本の「絵入り写本」で、みることにしましょう。

  現存最古の絵入りの写本は、形態的には巻物ですが、奈良時代の『絵因果経』まで遡ることができます。12世紀には『信貴山縁起』や『鳥獣戯画』などの、著名な絵巻が現れ、平安~鎌倉時代にかけては、華麗な装飾経の冊子や、大和絵の画風で描かれた多くの絵巻があります。

  続いて、絵本らしい多彩な内容で、現存作品数が2000点以上ともいわれる写本に、室町時代(1392~1573)の後期から、江戸時代(1615~1868)の中期までつくられた「奈良絵本」があります。「奈良絵本」は奈良という呼称が使われたことで、長年、制作地を奈良と関係付けてきましたが、最近の研究では、京都での制作とされているようです。

  内容は主に、「お伽草子」(室町時代に書かれた短編物語群の総称)を題材としたもので、冊子型絵本と絵巻物があります。『文正さうし』や『物くさ太郎』などの、よく知られた物語のほか、今年の干支に因んだ作品では、『鼠の草紙』などもあります。

  「奈良絵本」は、江戸時代に盛んに刊行された、木版印刷による「絵入り板本」とは時代的にも重なりますが、写本の方は、オーダーメード的制作であったために、購買層が違い、写本と板本が競合した訳ではありませんでした。

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