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編集者のアンテナ

ホンモノの「現実主義者」は誰なのか?

集英社    落合 勝人
(2007年4月発行 会報第111号より)
 新書編集部への異動を言い渡されたのは、「9・11」の半年前のこと。入社以来8年間、某大衆娯楽小説誌にいた私は、その直後のアフガン攻撃からイラク戦争に至る流れを目の当たりにして、「歴史の新たな段階」の到来シーンに、いきなり立ち会わされているような感覚を抱いたものです。これが21世紀の戦争か――と。

 国際法を完全に無視して、米英軍がイラク侵略を開始しようとしていた頃、チャンプルーズのマネージャーと私の間で本書の企画が持ち上がり、喜納さんの対談相手として、米軍基地が集中する沖縄で暮らす国際政治学者、ダグラス・ラミスさんの名前が挙がりました。対談収録が実際に行われたのは、2003年秋のことです。

 2人が繰り返し訴えているのは、「平和を守るために軍隊は必要だという常識は、本当に現実的なのだろうか?」という素朴な疑問です。先のアメリカ中間選挙では、ブッシュ共和党政権のイラク政策に失敗の烙印が押されました。イラク戦争は、コスト的にも安全保障の側面でも、まったく「現実的」な選択ではなかったのです。しかし、「反戦平和」を主張する声は、常に「そんな意見は非現実だ」という意見に掻き消されてしまいます。例えば2003年秋の段階で、自衛隊のイラク派兵を容認し、アメリカの単独行動主義との心中を「やむなし」と判断した人々は、真の意味で「現実主義者」だったのでしょうか?

 今、私たちは、平和憲法の改正を標榜する政権下で、戦争への態度決定を突きつけられようとしています。宣伝用のオビに「会社や家庭でもできることはある」というメッセージを付したのも、毎日の歯磨きのように「一般常識としての反戦平和」を習慣化してほしいと願ってのことです。それは同時に、理論的にも現象的にもまだまだ把握しきれていない21世紀の戦争を考察するための、絶対的な観測定点ともなり得るはずです。
反戦平和の手帖 あなたしかできない新しいこと
反戦平和の手帖 あなたしかできない新しいこと
喜納昌吉/著 
C.ダグラス・ラミス/著
集英社
735円

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