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編集者のアンテナ

本の中の世界 挿絵の力を考える

鈴木出版    今西 大
(2006年9月発行 会報第109号より)
  書名、本のサイズ、表紙の絵、装幀……。海外で出版された作品を、日本で改めて1冊の本という形にするとき、読者に親しみやすいようにと、それぞれの編集者は、目立つものから、よく見ないと気がつかないところまで、いろいろと工夫をこらします。そうした工夫を意識しながら、本を手に取ってみるのも楽しいかもしれません。

 児童文学の翻訳出版の場合、装幀や書名と同様に気をつかうのが、挿絵です。挿絵は、読者の心に浮かんでくるイメージの邪魔をしてしまう危険性もありますが、子ども読者が作品世界を理解する大きな力にもなります。
 「消えたオアシス」の原書には、挿絵がありませんでした。加えるべきか。つけるとすればどんな方針にするか……。

 舞台はアフリカ、サハラ砂漠。といっても、「ワジ(涸れ川)」という日本にはない地形をはじめ、砂漠の民の服装、ヤギの革で作った水袋など、見たことがなければイメージしづらいものが気になりました。またこの作品では、夜、夜明け、朝、日暮れと太陽の動きとともに表情を変えていく砂漠の光景が、幻想的に描かれ、作中人物たちの置かれた立場の厳しさを際立たせていました。理解を補うと同時に、物語世界の雰囲気をも「砂の表情」として補えれば、作品をより深く味わうことができるのでは?

 こんな注文をしたにもかかわらず、挿画家の方からいただいた銅版画は、こちらの意図をはるかに超えており、よく見ないと気づかないような工夫まで凝らしてありました。翻訳者は、文章の響きをとても大切にして言葉をつづられましたが、絵から聞こえてくる音は、その文章の響きと、みごとなハーモニーを奏でているようでした。

 書名を聞くと、内容と挿絵が一体となって浮かんでくる、そんな1冊として、心に残ってくれたらと思います。
ライト兄弟はなぜ飛べたのか 紙飛行機で知る成功のひみつ
消えたオアシス 灼熱のサハラをさまよって
ピエール=マリー・ボード/作
井村順一/訳
藤本泉/訳
鈴木出版
1,470円

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