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編集者のアンテナ

『海辺のカフカ』刊行のころ、そして今

新潮社    鈴木 力
(2005年6月発行 会報第106号より)
 新刊を世に出すとき、宣伝や本の帯に、内容をどれだけ書き込むか、ということについて、いつも考えさせられます。どんな主人公なのか、舞台はどこなのかくらいは読む前に早く知りたい、という読者もいれば、僅かな細部やヒントになることも知らされずにページを繰りたいという方も少なからずいます。映画や音楽なら、予告編や試聴などがあたりまえになっている現在でも、小説ではいまなお難しいところです。『海辺のカフカ』の場合、予告のチラシを作るにあたって、宣伝部のスタッフが「ネコの話らしい」というコピーを考えました。小説の中に出てくるキーワードを使って、「噂」の効果を生み出す工夫をしたわけです。「図書館の話らしい」「15歳の話らしい」など5種類のチラシをつくり、発売前に、他の文庫本や新聞広告などに1枚ずつ載せていきました。

 ネット上には、「いったい何枚のチラシがあるのだろう」という書き込みも現れ、この新刊の話題は、まさに噂のように広まっていきました。そして発売日には、新聞紙上で5つのキーワードを一挙に紹介し、それぞれに、著者自身が書いてくれた短い文章を付け、謎を更に深めた広告を出しました。この試みは業界でも評価され、毎日広告賞に入選しました。『海辺のカフカ』は、その他、見本版を作って発売1ヶ月前に書店の方々に配ったり、HPをつくって読者と村上さんとのメール交換をしたり、多彩な試みを行いました。

 この『海辺のカフカ』が刊行されて3年が経ちました。この小説はその間、韓国、中国などを皮切りに、欧米諸国で評判になっています。2月に文庫版を刊行するに際し我々は、こうした世界の動きを読者に知らせたいと考え、各国の書評や読者の声を載せた新聞広告を作り、村上さんの情報を報せるHPも作りました。長い時間をかけて世界的な評価を高めてきた村上春樹文学の側面が、いくらかは伝えられたのではないかと思っています。
海辺のカフカ 上
海辺のカフカ 上
村上春樹/著
新潮文庫
740円

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