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編集者のアンテナ

反戦のメッセージではなく、人生訓として

セーラー出版    高橋 啓介
(2005年4月発行 会報第105号より)
 原書の“Manneken Pis”を見たとき、すぐに出版を決めた。「あの小便小僧のなりたちの話か、そういえば知らないな。おしっこをする子どもの噴水なんて誰が考えたんだろう。いや、冗談ならいくらでも思いつくけれど、本当に作っちゃったのは、きっと大真面目でばかばかしいいきさつがあったに違いない」そんな興味に誘われていた。

 読むとそれは、戦争で親とはぐれたぼうやの話。小さなぼうやには、守ってくれるお父さんお母さんが必要。でもぼうやには、もっと切実な問題が…。それは、おしっこを我慢できないこと。ぼうやが高い塀のうえからおしっこをすると、おしっこは戦っている兵隊たちのうえに。それを見た兵隊たちは笑い出し、戦争はそれでおしまい。この出来事を忘れないために、人々はこのぼうやの銅像を建てたというベルギーのお話。

 調べると小便小僧の逸話はいくつかあるようで、これはそのいくつかのうちのひとつ。ほかにも火のついたダイナマイトの導火線を、水がないので子どものおしっこで消したというものもある。どちらも人の命に関わる深刻な状況を、子どものおしっこという微笑ましいもので解決している。反戦のメッセージととるよりは、絶望的な状況も笑って眺めてみれば、思いがけない解決策がある、という人生訓として読みたい。

 作者のウラジーミル・ラドゥンスキーは、たまたまベルギーに滞在したときに聞いた話からこの絵本を作ったという。世界的にもよく知られている話ではないようだ。

 さて、ベルギーで小便小僧が生まれたいきさつについてはわかったけれど、そのいきさつを知らない日本で、こんなに小便小僧が知られているのはなぜだろう。まだまだぼうやの謎は多い。
おしっこぼうや せんそうにおしっこをひっかけたぼうやのはなし
おしっこぼうや せんそうにおしっこをひっかけたぼうやのはなし
ウラジーミル・ラドゥンスキー/作
木坂涼/訳
セーラー出版
1,575円

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