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編集者のアンテナ

サトクリフとケルトとカメラマン

ほるぷ出版    松井 英夫
(2004年6月発行 会報第103号より)
 出版しようと決めたものの、サトクリフをどう扱ったらいいか、ずいぶん思い悩んだ。この、今はやや古めかしいイメージになっている作家を、わが国の読者にどうアピールするか。

 そんなとき、閃光のごとく刺激的な光をあててくれたのは一枚の写真だった。「アフィントンの白馬」と呼ばれる巨大な地上絵をはるか上空から撮った航空写真。この写真をひと目みた瞬間、表紙が決まった。タイトルも決めた。ついに『ケルトの白馬』が、ぼくのなかで形になったのだった。

 サトクリフは、古代ケルト人がなぜこうした巨大な地上絵を残したかを共感をこめて物語化している。今は忘れられたその物語を生きた人びとの想いは、現実に存在しているその地上絵とみごとな航空写真をとおして現代に繋がっていた。それを知ったときの驚きはなんといったらいいだろう。

 写真を撮ったカメラマンに会いたいと思った。遠藤紀勝さんは、ヨーロッパの民俗や祭りを追いかけてきたベテランで、「ケルト」は中心的なテーマだという。表紙に使うというと、ちょっと驚いたようだったが、嬉しそうにケルトや世界の古代遺跡などについて話してくれた。これからタイに移住して東南アジアの祭りを撮ると意欲を見せていた。あとから思うと、そのときはもう病魔に侵されていたらしい。二作目の『ケルトとローマの息子』、次の『ヴァイキングの誓い』を準備している時には、遠藤さんはすでに鬼籍に入られていた。驚いたことに、後でその仕事を見せてもらってわかったのだが、遠藤さんはヴァイキングも追いかけていて、『ヴァイキングの誓い』で描かれている北海、ロシアを経由のコンスタンチノープルへのヴァイキングの侵攻ルートまで視野に入れていた。サトクリフと遠藤さんの仕事はぴたりと重なっていたのだった。

 こうした思いがけない出会いに励まされて、サトクリフの『ケルト神話 炎の戦士クーフリン』は5冊目の刊行、いま6作目を編集中である。
うみべのステラ
うみべのステラ
ローズマリー・サトクリフ/作
灰島かり/訳
ほるぷ出版
1,680円

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