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編集者のアンテナ

はじめて流した涙のわけは……

冨山房インターナショナル    樋口華子
(2009年4月発行 会報第117号より)
 この絵本は、はじめて涙を流したどろぼうのお話です。新人作家の投稿原稿だったこの物語を最初に読んだ時、切ないけれど優しく愛に満ちたラストシーンに、子供や大人に大切な何かを伝えられる特別な絵本になりそうな予感がありました。

  とはいえ、この絵本が完成するまでは長い道のりでした。元は童話ぐらいの長さがあった物語を短くわかりやすくし、少しずつ動き出す主人公の心の変化を自然な流れで表現する……。作家の杉川さんとは、その都度立ち止まったり振り返ったりと、時間をかけて文章の推敲を重ねました。また挿絵には、作品全体に醸し出される異国的な雰囲気や、劇的に展開する場面でのダイナミックな描写が欠かせませんでしたので、線に強さがあり、雰囲気のある絵を描ける画家探しに時間を費やしました。そしてふくださんと出会い、我々の期待以上の物語世界を、存在感と独創性をもって描き出してもらえたのです。

  絵は、コラージュと線画を融合させて描かれています。これは、作品中に広がる主人公の“心の温度”を、温かさや優しさだけでなくスピード感、躍動感といった動きでも表現するのに、「コラージュだけでは表現しづらいし、線画だけでは絵本らしさに欠けるし……、ではこの二つを組み合わせるのがいいのでは」とふくださんと相談して決まりました。こうしてテーマがシリアスな物語に、言葉だけでは伝えきれないユーモラスな部分や心の機微も描き出され、作品が完成したのです。

  ところでこの絵本には、はっきりとした結末は描かれていません。子供たちが、この見えない部分を自然と想像し、思い描いたとき、それがこの絵本の結末になるのです。みなさん、最後のページや表紙の絵まで丁寧に読んで、自由に想像をふくらませてみて下さい。時がたって読み返すたびに、結末は変わっていくかもしれません。でも、その時自然と心が動き、感じたことが、あなたにとっての「結末」なのです。
どうぼうがないた
どうぼうがないた
杉川 としひろ ふくだ じゅんこ
冨山房インターナショナル
1,890円

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